はと

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7/31/2024, 12:11:56 PM

一人の方が楽だよ。
その人はそう言って、どこか寂しそうに笑った気がする。
私には、到底理解出来なかった。
だって誰かと居た方が楽しいし、何かを分かち合えるし、助け合えるし。絶対寂しくないのに。
寂しくない、はずなのに。
その人はその笑みのまま、少し遠くの空を見つめてこう言った。

「もう、今生の別れを経験するのは嫌なんだ。取り残されるのが嫌なんだよ」

だから、一人の方が楽だよ。
だから、一人でいたいんだ。
その人はそう言いながら、私たちの前に並ぶ沢山のお墓を前に涙ぐんだ声で、今にも泣き出しそうな声で、そう言った。

「だから、一人でいたい。/20240731」

7/30/2024, 12:29:43 PM

子供のように穢れを知らない澄んだ瞳が、同じように澄んだ空を見つめる。
それを見た瞬間に「ああ、遠いな」と思った。
どこまでも純粋で、真っ直ぐで、澄んでいて。
自分とは、真反対の人。

「甲子園!行こうな!一緒に!」
「……うん、行こうね、一緒に」

行きたい、行けない、行きたくない。
彼はマウントに立つ英雄で。
自分はスタンドで応援するただの外野で。
ああ、あほらしい。バカになりそうだ。

「怪我、早く治せよ」
「……治んないよ」
「治る!大丈夫!」

澄んだ瞳が自分を見て、にこりと笑う。
澄んだ空を背に笑う彼は、とても眩しくて自分は目を細めて「そっか」としか言えなかった。

「澄んだ瞳/20240730」

7/29/2024, 2:05:52 PM

ある日から、同居人がなにやら家を強化している。
主に外壁。それと屋根。
なんか要塞みたいな感じになって、折角可愛かった外観が見る影もなくなって悲しくなる。
さらには地下も作りだした。
もう本当に意味がわからない。

「ねえ」

同居人に問いかけると、彼は脚立を持ったままこちらを向いて首を横に傾ける。

「なあに」
「どうしてこんなことするの」

何もしなくていいじゃない、だって何も無いほど平和なんだもの。
それでも同居人はうーんと少し頭を悩ませていたのたが、即にもう答えを持っていた様でにこりと笑いながら口を開く。

「嵐が来ても、世界が滅んでも、君だけは守れるように」

嵐はともかく、世界が滅ぶのはスケールがデカすぎる。
それでも同居人はさも普通の事を言ったかのように、何事もないように今日も作業に励むのだった。

「嵐が来ようとも/20240729」

7/27/2024, 2:30:07 PM

この世に神様なんて居ないと思ってた。
だって祈ったって願いを叶えてなんてくれないし。
もし見てたら、こんなアホみたいな人生に少しくらい救いをくれると思うんだけど。
──なんて思ってたら、だ。
ある日寝てたら急にベッドの傍に知らない人が立っていた。
女の人にも見えるし、男の人にも見えるし、中性的な人。

「ああ、ようやく迎えに来れた」

にこり、と笑ってその人はそう言った。
なんだなんだ。迎えとはなんだ。
早くしにたいとかは願ってない。
早くしんでくれとは願ったけど。
目を見開いて居ると、その人は笑みを絶やさずこう言った。

「私、神様なんです。あなたの願いを叶えに来ました」

いや、知らない。なんだ。何の話だ。
呆気に取られていると、その人は不思議そうな顔をして首を横に傾ける。

「あなたが願ったんですよ?アホみたいな人生に少しくらい救いが欲しいなんて」

だから、救いに来ました。
なんて、笑う顔は無邪気に笑う子供のようで。
でも、その笑顔を見て思わず全身に鳥肌が立つ。
嗚呼、アホらしい。呆気ない人生だった。
笑顔を絶やさない『神様』の顔が霞んでゆく。
意識も遠のいて、ゆっくりとまぶたを閉じる。

「さ、幸せな人生を送りましょうね」

子供に言い聞かせるような、心地の良い優しい声。
その声が紡いだ言葉が、最期に聞いた言葉だった。


「神様が舞い降りてきて、こう言った。/20240727」

7/26/2024, 12:17:29 PM

ご自愛ください、長くないんですから。
お医者さまにそう言われて、思わず目を点にする。
どうやら私の寿命は長くは無いらしい。
思えば、自分のために生きたことはないと思う。
小さい時は親のために、大きくなっては他人のために。
なんとなく、自分以外の人のために生きてきたように思う。
けれど、それでいいんだと思う。
みんな、みんな、笑ってくれていたから。
心配そうなお医者さまの顔を見ながら、私は笑う。

「それでも良いです、私、誰かのために生きられるなら」

誰かのために、私の寿命を全う出来るのであれば。
それが、私の本望なのだから。


「誰かのためになるならば/20240726」

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