仕事から帰ると妻がうきうきした表情で夕飯を作っていた。
そういえば今日、友人達と買い物に行くって楽しみにしていたな、と数日前の妻の発言を思い出す。
楽しめたのなら良かった。とコートを脱ぎながらソファーに沈み込む。
すると妻は料理の手を止めてくるりとこちらを振り返った。
「今日ね、新しいセーター買ったの!見て見て!」
そう言って料理もほっぽって買ったものを持ってきた。
そして、紙袋の中からジャーン!とでもいうように新しいセーターを取り出した。
それを見て俺はピシリと固まってしまった。
だって、そのセーターは…
「ちょっと寒そうだけど可愛くない!?」
いわゆる…
「…それ…」
童貞を殺すセーター、とやらだ。
妻はそんな事は知らずに純粋に可愛いと思って買ったのだろう。
とりあえず外では着てほしくないため(当たり前だが)しどろもどろにそのセーターがどういうものであるのか教えた。
「っ…!?ち、違う!違うから!!そういう意味で買ったんじゃ…!」
「分かってる…」
真っ赤になりながらわたわたとする妻が可愛いと思ってしまった俺は相当な妻バカだ。
とりあえず…ここは…
「…俺以外の前では着ないでね…」
そう言って妻をソファーに押し倒した。
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セーター
あぁ、今日も、
貴方の優しさに触れて
心が
恋という広い海に
落ちていく
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落ちていく
今になれば周りからおしどり夫婦なんて呼ばれるけれど、昔は全然そうじゃなかった。
旦那は仕事人間。家に帰ってきて会社に行くまでの時間に5時間もなかった。
そんな中で私は必死に子供を2人育て社会に送り出した。
きっと幼いころの2人の子供は父親と遊んだ記憶はないはずだ。
そうして過ぎていった時間。
それは突然の出来事だった。旦那が定年退職で家にいるようになった。
すると旦那はポツリとこぼしたのだ。
「…悪かったな」
驚いて顔を上げるとこちらは見ないで顔をしかめ新聞を読んでいる旦那がいた。
しかし、ほのかに申し訳ないという空気を纏っていた。
わたしは思わず笑みが溢れた。
「ふふ…」
「なんだ」
眉を寄せたままこちらをチラリと見る旦那。
私は口を開いた。
「フフ…いえ、私は謝られるような事は何もされてませんよ。むしろこちらこそ家庭のためにありがとうございます」
旦那は照れたように新聞に目線を落とす。
しかし旦那はまたも口を開いた。
「一緒に、家庭菜園でもするか…。できた作物は近所の方にあげてみたいんだ」
旦那のその提案に私は一気に嬉しさが込み上げる。
なぜなら家庭菜園は昔からずっとしたかった事だから。
「い、いいんですか?」
旦那はフンッと鼻を鳴らして小さく「ああ」とこぼした。
それから周りの人に
「おしどり夫婦ねぇ〜」
と、言われるようになった。
きっと私同様、旦那も嬉しいはずだ。
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夫婦
消えるそぶりを一切見せない
貴方へのこの恋情は
どうすればいいの?
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どうすればいいの?
ゆらゆらと揺れる小さな炎。
その様を見ていると、少しばかり自分に重ねてしまう。
ゆらゆらとゆっくり燃え上がるキャンドルの炎はまるで貴方への微かな恋情に似ている。
きっとわたしはキャンドルのような淡い恋心を貴方に向けているんだ。
例え叶わない思いだとしても。
でも、その時は。
このキャンドルの火を吹き消してね。
そしたら貴方への恋心は全て消し去るから。
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キャンドル