使い古したスニーカーが、夕日に照らされて薄明るい色をした砂利を蹴っていく。小中学生の通学路にもなっているこの道は、一面田んぼに囲まれている。今は僕しか歩いていない。暑くも寒くもない風が吹き、くしゃくしゃの蛾みたいな葉が道端の段差にひっかかり震えている。なでつけるびゅうびゅうという風の音と、少し先にある用水路からのぴちゃぴちゃという水の音しか耳に入ってこない。その妙な静けさに、何かが終わることを悟った。
春。
そう口にしたはずなのに、どんよりとしため息に聞こえた。君のことを思い出してしまった。春に出会って、春に居なくなった。もう、どうにも、どれぐらいか、考えたくない。君が消えてから、皮肉にも世界の美しさを知った。この世界の全ての美しさを君と肌で感じたかった。きっと、春が終わるのではなく、僕が終わるのだろう。僕が終わる前に、春と一緒に、消えたはずの君が来た。僕が終わっても、君は終わらない。この美しい世界に残って、あらゆる終わりと始まりを眺めるのだろう。もし世界が終わるなら、僕は君を待っている。僕は世界の終わりに君と、
最悪な時のおまじない
「自分のせいじゃない」
「いつか変わる」
「変わらなくていい」
おまじないだよ
いつも一人でぐるぐる
考えるけれど
やがて抱えきれなくなって
誰かに聞いてもらうんだ
だからどうやら
誰にも言えない秘密はないんだ
けれども誰もが
自分のことを
わからないと笑う
自分も
わからないと笑う
古いアルバムだらけの狭い部屋 誰しも体に備えているらしい
失恋(創作)
学生時代、親友のるいから、惚気と愚痴をヤになるくらい聞かされていた。寂しくて死んでしまうだの、連絡が帰ってこないのは愛がないだの、るいの毎日の情緒不安定さに、恋というのは実にめんどくさいものなんだと呆れた。
大人になってからも恋はしなかった。あたしはずっと消去法で人付き合いをしていて、ある程度、不快ポイントが貯まったら、男女ともに切り捨ててきた。そうすると、あたしと気性の合うやつと、ポイントすら貯まらないどうでもいい人達の中で過ごすハメになった。そして、惚気と愚痴に、子供と親と金が追加された。
変わらないあたしと対比して、るいは結婚して良い方向に変わった。仕事はなんかのリーダーに抜擢されるし、家族の仲のいい写真をインスタにあげるし。なにより、どんなことをしても、るいはかわいかった。
るいとはあまり話さなくなったけど、るいの人生の大半にはあたしがいることは忘れない。恋を失ったって、るいが居るだけで、るいを見ているだけで幸せだ。
あたしが信号待ちで待っていると、るいを見かけた。知らない男と歩いていた。それから後をつけると、ホテル街にそそくさと歩いていった。
るいはそんなことしない。いい子なの。あたしの見間違い。幸せを壊すバカじゃない。
待っててね、るい。また話を聞かせて。