昔、ハムスターを飼いたくて
ペットショップに行き
オスを2匹買ったことがある
小さなハムスターが寄り添い合う姿に
わたしは毎日癒されていた
しかし…
ある朝、ハムスターの小屋から
ちぃちぃ、という聞きなれない音がした
小屋をのぞいてみると
小指の爪サイズの
魚肉ソーセージのようなものが5匹いた
え?赤ちゃん?
って、オス2匹って言ったのに!
どうやら1匹はメスだったらしい
わたしは頭のなかで
ねずみ算、という言葉を思い浮かべ
青ざめた
あちこちの知人に声をかけ
赤ちゃんたちを里子にだした
残すはあと1匹
そんなある朝、ちぃちぃという
聞きなれた音が
ふたたび小屋から聞こえてきた
小屋には魚肉ソーセージが5匹
まだ小さいからと
母ハムスターと一緒にしていたのが
仇となった
親子なんて感覚はないらしい
恐るべし、ねずみの世界
すぐさま子ハムスターと引き離し
わたしはそれはもう必死に
里親を探して
数日でハムスターたちを里子にだした
ハムスターの愛は
わたしには恐怖体験となったのだった…
2番目のむすめが小学生のとき
マンガのキャラクターを
イメージして声をあててみたり
芸能人の声を
モノマネしたりしていて
またそれが上手だったりした
「声優になったら?」
上のむすめにいわれ
「ならないよー」
と、言いながら満更でもない様子
そして
みんなに何度もアンコールされて
そのときはまっていた
倖田來未のモノマネ
「どーもー、倖田來未でーす」
を連呼していた
…次の日
2番目のむすめの声は
つぶれていた
その日を境に
倖田來未のモノマネは
どんなにねだられても
披露されることはなかったのだった
むすめが小学生のころ
うしろには小さな山がある
そんな田舎のアパートに住んでいた
休みの日の朝
いつものようにむすめが
走りこみに行こうとすると
「いっしょにはしる!」
めずらしく2番目のむすめが言い出した
仲良く走り出した二人を見送ったのだが
すぐにむすめが
凄い勢いで戻ってきた
なんと
坂をおりてすぐに脇の茂みから
2頭の鹿が駆け降りてきて
ぶつかりそうになったらしい
あまりの大きさに
恐怖を感じて死にものぐるいで
走ってきたようだ
…で、2番目のむすめは?
あ!
と、むすめが焦って後ろを振り返ると
「おいてくなんてひどいよー」
と、半べそをかきながら
必死に走ってくる
2番目のむすめの姿があったのだった…
むすこが初めて
永久歯に生え替わるために
乳歯がグラグラしだしたとき
怖がりなむすこは
自分で動かして抜くのをいやがり
けっこうな日にちがたっていた
このままでは
後ろから永久歯が生えてきてしまう
病院に行って抜いてもらうのも
嫌だというむすこに
そういえば
チョロQと乳歯を糸でつないで
チョロQに抜いてもらう
というふざけたマンガがあったのを思い出した
それを聞いたむすめたちが
喜んで実行した
病院に行きたくないむすこは
仕方なくうつぶせになって
糸でつながったチョロQを見つめた
しかし
チョロQは非力だった
抜けそうにないことに
ほっとしたむすこが立ち上がった瞬間
チョロQの重みで
乳歯が引っ張られたらしく
むすこは痛みに叫んだ
その後も
乳歯につないだ糸をとるのにてまどり
そのたびに涙をうかべるむすこ
こんな思いをするのはもうイヤだ
と、思ったのか
すぐ病院に行って抜いてもらったのだった
「全然いたくなかった!」
むすこは大喜び
次からは病院でぬくから!
と、強くわたしに言うのだった
ごめんよ、母が悪かった…
むすめは中学生のとき
地区ではそこそこ強い部活をやっていた
でも、地区には
全国に行くような学校がいて
むすめの学校はいつも2位だった
しかし最後の地区予選
その学校を倒し優勝したのだ
次のブロック大会で優勝すれば
全国だったのだが
結局、決勝で地区予選で倒した学校に負け
むすめはその日で引退となった
会場からの帰りの車で
むすめはずっと泣いていた
そして、家に帰ると
今までの大会の決勝後の時のように
今日の決勝のビデオを見始めた
もう中学で試合をすることも
このメンバーでプレイすることも
辛い練習をさせられて
先生の悪口を言うこともない
次はないのに
それでもずっとビデオを見ていた
いつもそうだったように
「こうプレイすれば良かった…」
と、むすめはつぶやいた
中学では辿り着けなかったけど
その気持ちが
新しい別の舞台で活きることを願っている