丸く綺麗な月。
なんとなく縁起が良さそうだから、手をあわせてお願いごと。
「なぁにしてんの?」
「月に願い託してる」
「どんなの?」
「知りたい?知りたい?」
「あ、いいです別に」
「君もなんか願っとけば?」
「やってみるか」
そう言うと君も手をあわせ始める。
叶うと良いなぁ。
強く降っているわけでもない雨。それを見ながら、雨宿り。走ってしまえばこんな雨どうと言うこともないが、なんだか今は気分じゃない。雨の日はいつもそう。そう思っていれば、もう既に30分は経っている。
30分聴き続けた雨の音。最初は楽しくても、後は面白くない。30分見続けた目の前の道。知り合いが通らないかと見ていたが、誰も通らなかった。
さすがにもう走るか。前に一歩踏み出したとき、君が道の奥の方に見えた。途端、走るのも嫌なほどに沈んだ気分は上がりだした。
手を振れば振り替えしてくれる。
君に会えたんだから、このなかなか止まない雨のことを許してやろう。
不安だった私へえええええ!!!
なんかこう、あれ!ごたごた考えんでもその子はへーきだぞ!
お前が思っている以上にへーきだぞ!!
押してみろ!いける!思い届くけん!その子全然いけるから!いけるから!やってみやがれー!
by想いが届いてハッピーな私より
この話にはGL要素が多分!軽ーく!含まれています!なんそれ見たくない。と思った方Uターン推薦。何でも良いから見せろな方そのままどぞ!
嬉しそうに笑う君。けれどよく目を見ると、その目は嬉しそうでもないし、笑ってもいない。ただただ無。なにも考えていないし、感じていない。
まだ見つからない。君の欠けた感情の最後のピース。喜びだけがない。君はどこにあるのか知っているという。
「知っているけど教えてあげない」
楽しそうに言う。私は君を完成させてあげたいんだ。教えて欲しい。そう頼むと、ヒントをあげる、そう言われた。
「灯台下暗しだよ。頭の良い君なら、10年後には気付くんじゃないかな」
そう言われたが、10年たってもまだ、見つかっていない。
彼女がすでに消してしまっているのかも。
「見つからなかった?そっかぁ。ま、別に良いよ。一つないからとて、どうこうなるわけじゃないし」
明るく話す彼女は、愉しそうに目を細めた。
「答えだけ、聞いとく?」
「…知りたい」
彼女は私の胸にそっと手を当てて言う。
「ここだよ。僕はここに隠した。僕も、君も取り出せないここに。」
「取り出す方法は?」
君が精一杯幸せになること、そう言われたが、それは永遠に叶わない気がした。
「知っててやったの?」
「うん。知ってたからやったの。」
君が完成して、沢山知らなかった感情を知って、沢山の感情を知った君に告白して、沢山の感情を持った君の返事を聞く。それが私の幸せなのに。
「君ってたまに嫌なことするね」
「はは、僕はいつだってヤな奴だよ」
そんな話をしたのが、21年前。今も私は彼女の呪縛の中。彼女のエゴの檻の中。
「ナニコレ…」
「お土産。君の感情にあわせて色が変わるんだよー。」
透明な水の入った小瓶を揺らす。
ちゃぽんと音がした。それだけで、水の色は変わる気配はない。
「これ、不良品か、騙されたんじゃない?色変わんないよ」
瓶をくれた彼女の方を見る。
「えー。ちゃんとしたところから買ったんだよー。騙されたはないよー。不良品はあるかも」
小瓶の水はまだ透明。
「私そろそろ帰るねー。他の子にもお土産配らなきゃだし。」
「うん、わかった。またね」
元気に手を振りながら帰って行く。
うん。やっぱり騙されたんだな。
君が帰って、一人になって、こんなに寂しいのにまだ水は透明なままだ。