「理想のあなた、だって。なんかある?理想」
白い世界に色を塗ろうと、筆を動かしていた彼女は聞く。
「あるよ~そりゃぁさぁ、誰だってさ、誰かしらに夢見るもんだからねぇ」
同じく、筆を動かしていた彼女は答える。
「ま、そうよな」
「言ってみる?色んな人の“理想のあなた”」
「じゃ、僕が最初なー。んーやっぱ、定番のアイドルとか?なんかさー知らねぇ人によく、夢見られてない?」
「それが仕事やけんな。仕方ねぇ、仕方ねぇ」
次の色をと、パレットに手を伸ばしながら話す。
「次、私か。警察官とかもよね。警察官みんな真面目で正義感強い、とか思われてるじゃん」
「警察官でも事件起こす奴は起こすよな」
それなー!と元気に同意し、彼女は白い地面に色を着ける。
「あれやね。こうやって言ってみてると、どんだけ僕らが周りに理想押しつけてるのかわかるね。」
「あの職業の人はこんなやろ、とかあんなやろ、とかねー」
「あ、待って。理想やなくて、イメージかも。」
「ややこしいから、理想ってことで」
彼女達は、世界に少し色を着けると立ち上がり、どこかへと消えていった。
「僕のためになんでも出来ちゃうの?」
「そっすね。はい。愛の力でやってやりますわ」
「きゃー!頼もしー!」
信じていないという様子の君。
でも、私は本当に何でも出来るよ。君が欲しいといった物はなんでもあげちゃう。君がキライといった人は、みんなの君から遠ざけちゃう。君がもし、もし私に死ねといったら死ねてしまう。
そのくらい君を愛してる。
「あのね、私ずっと君に謝らなきゃいけないことがあったんだ。」
目の前の君は、椅子の上でたいそう座りをしていた。
「君がね、君の親に殴られてること知ってたよ。なのにね、私なにも行動を起こさなかったの。本当に、」
本当に悪いと思っている。けどそう言ったところで、君は許してはくれないだろう。優しい君でも、これは許してはくれないだろう。なんだかそんな気がした。
「…ごめん」
ぐるりと彼女がこちらを見た。
嗚呼、その顔。その顔は、君が二度と口を開かなくなる前の日に、私に見せた顔だ。
愛らしく、怖い。私以外は知らない君の笑顔。
段々、その顔が歪んでゆく。目は黒く染まり、口からボタボタと腐った汁が流れ落ちた。
ごめんなさい
初めて見た世界は白かった。
次に見た世界は灰色で、酷い物だった。
その次に見た世界はまた、白かった。
そして今見ている世界は綺麗だった。
青い空に、白い雲。緑のキレイな草に、小さな魚の泳ぐ川。控えめに吹いている風が心地良い。
「ははっ、なんだろうね。今なら僕、空とか飛べちゃいそう」
スキップをすれば、想像していたよりも軽やかに跳べる。
少し助走をつけて、思いっきり跳ぶ。楽しい。
今までの狂った世界とは大違い。
このままどこまでも、跳んでいけそうだ。
しばらく風向きに沿って跳んでいた。
跳んでいる間は、なんだか少し救われたような気がした。
『おうち時間でやりたいこと』
そうさねぇ。私は大好きなあの子への思いを記録して過ごしてるよ。記録したそれを、たまに知らない誰かに見せるんだ。ネットを使ってね。
見せる意味あるかって?特にないねぇ。見せたところで彼女の良いところが世間に少し、広まるだけだ。他には確か、大好きなあの子の描いた絵を見てたりするね。あの子、絵が上手いんだよ。たまに見せてくれたり、プレゼントしてくれるんだ。他には、あの子の写真を見てみたり。あれ、おかしいな。全部あの子にかんする事しかしてないや。
私のおうち時間にまで、影響を与えてくるなんて。
罪な女ねぇ。君は。