世界が灰色に見えていたような気がした。
気がしただけで、実際はきちんと色はついてた。
私の人生はもうずっと心が躍るようなことは起こっていない。10回目の春に至るまでにおこった心が躍ることといえば、7回目の秋にGとLのつく界隈を知ってしまったことと、8回目の春にBとLのつく界隈を知ってしまったこと。
その他諸々、その年齢で知るにはちょっと、いやかなり早すぎる大人な話くらいだ。
私は10回目の春を迎えていた。
「引っ越しするぞー!引っ越し先はつくまでひみつでーす!」
「あ、父さんに聞いても無駄だぞ~!絶対に教えないからな!」
両親が引っ越しを発表したときのテンションは、お出かけに行くぞー!のテンションだった。いや、かっる。引っ越し先はリアルに個人情報の流出になるので、伏せさせてもらう。
引っ越ししたら灰色の世界に色がつくかなぁ、とどこぞの小説の主人公だっ!となるような事を考えながらの引っ越しだった。
引っ越し先についてた、5日目くらいに、近くで夏祭りがあることを知った。
祭りとか花火大会とか、派手そうなイベント大好物の私は、姉を強制的に連れて、行ってみた。
祭りに来たのはいいものの、つまらなかった。いや、屋台とかすごかったけど、派手ですごかったけど、なんかなぁ、つまらなかった。
屋台を見て回るのに飽きて、祭り会場の上の方にある神社に行ってみることにした。祭りの最中の神社も大好物。神社周りだけしんとしてたりするの、良いよね。
階段を上っていくと鳥居が見えてきた。鳥居をくぐると異世界へ~、なんておこることはなく、普通の良き雰囲気の神社が現れた。神社周辺には誰もおらず、まるで世界に私以外の人間がいなくなったような気分になった。
カリカリ、と静な空間に何かを書くような音が響いた。誰かいたんだなぁと思い、音のする方へ行く。音の元には私より一回りくらい小さな少女が一人、何かをノートに描いていた。
「なんの絵描いてんの?」
「!あ、えっ?ぁう、ご、ごめんなさい。いまどきます。」
話しかけると、すっごい怖がられてしまった。まぁ、確かに、知らない人に急に話しかけられたら怖いよね。
少し話しが長くなってしまった。ここは大事なシーンだけど仕方ない。カットしよう。少女と私は意気投合!仲良くなって、色々あって、彼女のおかげで私の世界は色を取り戻しましたとさ。ほんと、今は恋してる色だよ。世界は。
『その時の気分、気持ちによって自分の目に映る世界は、色を変えるよねってお話』
「突撃!テメェが晩ご飯!ということで美味しくいただかれろ!」
扉を勢いよく開けて入ってきたのは、いつものエメラルドだ。そのエメラルドが来ると同時に、何もない白い空から紙が一つ。
「僕は食べ物じゃないぜ~。と、まぁその話は投げ捨てて、これみんしゃい」
「何じゃこりゃ?楽園…?」
「そ、楽園。なんか思いつく?」
さぁ、とエメラルドは首をかしげる。これはまた聞いて回るしかないのかな。エメラルドから、紙を返して貰い、それを机に置く。僕が椅子から降りて歩きはじめると、エメラルドもついてくる。歩いていった先には扉が一つ。やはり現れた。
扉を開けると単眼が一人。
「ヒトメ~。君の思う楽園とはなーに?」
「え?楽園?楽園かぁ、平和で温かい所とか、かな?」
答えを聞くとエメラルドは、パッパとどこかへ駆けていった。
駆けていった先には扉が一つ。扉を開けると双子が1組。
「イヤッフゥ!お二人さん!テメェらの楽園とはなんじゃらほいぃぃっ!」
「はいっ!私は美味しい食べ物があって、借金がない場所!」
双子の兄が答える。
「俺は偏見とか、差別とかない場所と思う。」
双子の姉が答える。後から入ってきた僕は、その答えを聞いて次の扉を探しはじめた。
探していると、扉が一つ現れた。開けた先には長い耳の人が一人。
「君の思う楽園とはなーに?」
「ダサTがある場所全てが楽園やろ」
その答えを聞くとまた、エメラルドが駆けていった。そのままエメラルドはどこかに消えていった。
ふらふらと歩いていると、扉が一つ。開けた先には、黒い髪の人が一人。
「はい、質問。君の思う楽園ってなに?」
「親がいなくて、クラスのヤツがいなくて、僕のことを馬鹿にしたヤツみーんないなくて、寂しくなくて、怖くなくて、辛くなくて、明るくて、楽しくて、元の、親がいて、クラスのヤツがいて、僕のことを馬鹿にするヤツがいて、寂しくて、怖くて、辛くて、明るくなくって、楽しくない場所に帰りたくないって思っちゃう場所。」
黒い髪の少女はその答えを聞くと、重いなぁと笑った。この黒い髪の人の時だけは、僕は質問される側だなぁ。そんな呑気なことを考えているうちに、黒い髪の少女は消えていた。少女がいた場所には紙が1枚。
『その元のいやぁな場所を作ってしまったのは君が原因だよ。どうせそうだよ。きっと』
「そうだよね。やっぱり、僕が原因であってるよね」
少女はそう呟くと、椅子に座り、目を閉じた。
「お、いいところに来た!」
エメラルドの髪の少女が、風に話しかける。
「ちょっと、ある人に言伝を頼みたいんだけど…いいかな?」
「…今日は特別多く言伝を頼まれる。なんだ?そういう記念日かなにかか?で、お前はなんだ匂いでも運べってか?それとも紙飛行機か?今日はたんぽぽの綿毛とかも頼まれたぜ。お前も綿毛にするか?」
「んー、私は音を運んで欲しいな!君ならいけるでしょう?私の吹く口笛の音でも運んでよ。」
そういうと少女は、楽しそうに口笛を吹き始めた。
風はそれをそっと運びだす。野原を越えて、小川を越えて、扉を通ると配達は終わる。
椅子の上で楽しそうに足をバタつかせていた少女は、風に気付くと動きを止めた。
「いらっしゃーい!配達ご苦労様!はい、これ音の発信源にお願いします!」
黄色の髪をした少女は、風に紙飛行機を渡した。
風はそれを受け取ると、黙って引き返していった。
扉を通って、小川を越えて、野原を越えると、配達は終わる。
「紙飛行機、なるほどなるほど。よーし!会いに行くかあ!」
紙飛行機を受け取り、解体した少女は元気に走り出す。
『早くおいでよ』
解体された紙飛行機にはそう、書かれていた。
「生きる意味、ねぇ」
チラリと紙を見やって、少女は呟いた。黄色のウルフボブの毛先を指で弄りながら、座っていた椅子から降りる。
意味、いみ、イミ…
「んー、分かんないや!」
少女は持っていた紙を放り投げ、歩き出した。
行った先には、扉が一つ。開けるとキィと音がした。開けた先には、エメラルドの髪をした人が一人。
「君の生きる意味ってなぁに?」
「私の?私の生きる意味は君だよ。君は私の神様だから。」
その答えを聞くと、また少女は歩き出した。
行った先には、また扉が一つ。開けた先には、白い髪の人が一人。
「君の生きる意味はなぁに?」
「アタシの生きる意味なんて聞いて楽しいことはなぁんにもないよ。」
「知ってる。けど聞きたいの」
「ふーん、まぁアタシの生きる意味はね、気に入らないヤツを殺すこと!どう?素敵でしょう?」
その答えを聞くと、また少女は歩き出した。
行った先には、また扉が一つ。開けた先には、背の高いナニカが一つ。
「君の生きる意味ってなぁに?」
「あ”ーあ”ぅ”あ”ぇあ”あ”」
その答えを聞くと、また少女は歩き出した。
行った先には、また扉が一つ。開けた先には、黒い髪の人が一人。
「君の生きる、」
少女は言葉を呑み込んだ。
「ね、君の生きる意味は何だと思う?」
黒いウルフボブの少女は聞いた。
「そういう質問って困るね。なんて答えれば正解?正解なんてない!とか言う?まぁ何でもいいや。生きる意味だっけ?まぁアレじゃない?生まれたからじゃない?これであってる?」
「大正解!君の生きる意味はそれだ!」
そう言うと、黒い髪の少女は消えた。
残された黄色の髪の少女は、紙を拾い上げた。
『生きる意味って人それぞれやけんね!あんま考えても仕方ない!聞いて回って分かったやろ?あ!ちなみにボクの生きる意味(?)はとにかく楽しむことやよ!』
「文字だけで良くここまで五月蠅くできるなぁ」
そういうと少女は椅子に座り、目を閉じた。