雨に佇む
ある雨の夜のことだった。
私は気づけばずぶ濡れで、でも、周りは誰も気にもとめない。
私の存在なんて、認識していないかのように。
雨なんて、降らなければいいのに。
なんだかひどくさみしいような感じだ。
ふと、服が張り付いてきているのを感じた。
私の淡い色のワンピースは濡れて、色が濃くなっている。
傘をさしているはずなのに、それも意味をなさないくらいに降る雨。
いっそ、濡れて帰ってしまおうか。
なんて、考えながら家に向かう。
帰ったら、お風呂、沸いてるといいなぁ…。
そんなことを思っていると、スマホが鳴った。
「雨、すごいけど、大丈夫なの?雨宿りしてから帰ってきな。」
母からだった。
雨宿り、かぁ…。
天気予報を調べても、雨は止む様子がない。
いいや。帰ろう。
帰ってゆっくりお風呂に浸かればいい。
割り切ってしまえば、雨というのも楽しくて、たまには濡れて帰るのも悪くはないような気がした。
雨粒の傘に当たる音を楽しんで歩く。
次の雨の日はどんな傘と歩こうか。
さよならを言う前に
Childhood
いつまでも捨てられないもの、なんて、誰にでも一つくらいあるんじゃないの?
それはいけないことなの?
それ、持って眠るつもりなの?!
ママはいつも私にそう言う。
別に私の自由だと思うのに。
ママが使うわけじゃないんだから、いつまで持っててもいいでしょ!
なんていうけれど、私もそれが普通じゃないことくらいわかっている。
私はライナスみたいに、彼の安心毛布みたいな私のタオルを持って眠る。
新生児だった頃。
未熟児として生まれた私におばあちゃんが作ってくれたものだ。
もう、18年の付き合いになる。
そろそろ布もほつれたりしてきて、捨てなさい、なんて言われるけれど大事なものだ。
私が生まれたことを喜んで、未熟な私を助けてくれた人がいた証であり、私が無事に生きている証だと思うから。
これを捨てることはまだないだろうな。
だって、そんなことを考えられるほど大人になれていないのだから。
私はいつまでも子どもで居たいのだから。
なんて。
そんな事を言っているから、なにも捨てられないのかもしれない。
夢も、希望も、空想じみた話を信じる心も。
童話の中の女の子になりたくて。
プリンセスがいるような世界に憧れて。
妖精も魔法使いもいるあの世界を諦められずにいる。
はぁ…。
ホグワーツに行きたいし、夢の国の住人になりたい。
ワンダーランドにだっていきたいし、オズの国にだって。
そんな絵空事を追いかけて私は、いわゆるDヲタになった。
でも足りないから、今年こそはハロウィーンだけでもプリンセスになる。
それ以外は、少女みたいなガーリーな服やらロリィタやらを着て、おとぎ話の中の女の子!になってやるんだから!
夜の海
手持ち花火を、夜の海辺で。
持ち寄った手持ち花火の封を切り、ライターで火を灯す。
いつもの四人で。
私の大切な人たちが、お互いを大事だと感じていることを幸せに想いながら。
それでも、台風が近づく海辺では、火はつけたそばから消えていった。
マジックアワーが終わる頃。
近くのコンビニにふたり。
暗くなった公園を、回り道して進んだ。
着火ライターを買いに。
最後の一つだった。
帰り道は少し足早に、近道をして。
こっちから行けばよかった、なんて、笑いながら。
向かうときには不気味に思えた公園の暗さも、花火をきれいに見せてくれる材料に思えた。
海辺に戻れば風は、少し弱まって。
それでも湿気を帯びた空気の中では灯らない光。
なかなか点かない花火に火を近づける。
その瞬間、手の先で光が弾けた。
思わず「ついた」と揃えて叫んでいた。
明るく輝く花火の鋭い音が響いた。
ゆっくり眺めるまもなく消えていく輝きに見惚れていた。