君はあの夏のことを覚えてるかい?
2人でホタルを見に行った時のこと。
夜のハイウェイを流しながら、いろんな夢を語り合った。
車を降りて、ホタルがいる場所まで歩いていく。
足元が少し悪く、よろけながら進んだ。
よろける度に手と手が触れて、ドキドキしたのを覚えてる。
あの時に勇気を出して、手を握ればよかったかな。
そうすれば、2人同じ未来をみれたのかな。
そんなことを考える。
あの日、暗がりの中での勇気のなさが悔やまれる。
〜暗がりの中で〜
君と会う時はいつも同じ店。
昔馴染みの喫茶店。
君はいつもレモンティー。
僕はカッコつけてホットコーヒーのブラック。
ここのコーヒーは幼い僕には少し苦く酸味がある。
君と重ねてきた時間の甘酸っぱさと混じって、
なんとも言えない味わいがでる。
店を出て、君を助手席に乗せていつものドライブに出る。
君を乗せる日は、車の中から余計な香りを取り除くようにしている。
君とデートした後に車の中に残る君の温もりと、微かな紅茶の香りを楽しみたいから。
〜紅茶の香り〜
30年振りにあの子に会った。
30年前と変わらぬ姿に、再び恋をした。
待ち合わせ場所は街中のコーヒー店。
僕は車で待っている。
お互いにどんな車に乗っているのか知らない。
駐車場に入ってきた何台かのうち、
ふと目に止まる1台がある。
あの子だ。
そして、僕の車を知っていたかのように、
車の中の僕に向かって手を振っている。
車を降りて、30年振りの会話。
第一声は何にしようか。
30年前に合い言葉のように交わしていた言葉があったのだが。
お互い示し合わせたように、同じ言葉を発した。
「会えて嬉しいよ」
お互いが思い合って発したこの言葉。
僕らの新しい愛言葉。
〜愛言葉〜
「今日はありがとう。また会おうね。」
そう言って君は、僕の車の助手席から降りる。
いつもの場所、いつもの時間、いつものセリフ。
君も僕も本当はすべてわかってる。
互いに恋人がいるのに、会うことの罪深さを。
僕がまだ君を好きだってことを。
そんな不都合を「親友」と言う名の仮面で隠し、
居心地のいい関係を続ける。
車を降りる君の右腕を掴み、
「行かないで」
「ずっと側にいてほしい」
この言葉が言える勇気があれば良かったのに。
〜行かないで〜
君はきっと
「そんなことない」
って言う。
でも僕は
「そうだよ」
って返す。
君が嫌いな君の瞳は、
僕が君を大好きな理由(わけ)の一つ。
少しキツそうに見えるから君は嫌なんだよね。
でもね、その瞳の奥の輝きに気付いてる?
僕はその瞳に吸い込まれ、恋に落ちた。
曇り一つない、どこまでも続く青い空のような瞳に。
〜どこまでも続く青い空〜