「ねー、この服ほしい!」
1万円もする服を指さして笑う君に、僕は言う
「ちょっと高いかな、ごめんね」
そう答えた瞬間。
君の顔が曇り、
「ケチ」
とだけ言って店内へと走っていった。
朝日の眩しさに目が覚めた。
またあの夢か、もう忘れかけていたのに。
あの時の君の声、表情、店内の空気⋯
その全てが未だに「脳裏」に焼き付いている。
どんなにあなたを憎んでも、あなたは私の感情に気が付かない。
あなたが私を好いているとしても、私に害はない。
それに気がついたときには遅かった。
あなたへの嫌悪感がどんどんと増大していって、私の心を蝕んでゆく。
黒く染まったこの心はもう元に戻らない。
眠って、食べて、話して・・・
そうやって日々を過ごして誤魔化しても、心の奥には跡が残ってしまう。
「意味がないこと」。
それは、あなたを嫌うことだった。
いつも教室の真ん中で雑談をしているあなたと、いつも教室の隅で本を読んでいるわたし。
頭が良くて勉強が得意なあなたと、体が弱くて運動が苦手なわたし。
友達がたくさんいるあなたと、友達が全然いないわたし。
別れてからすぐに新たな恋を始めることができたあなたと、別れてもずっとあなたが好きなわたし。
まるで対比のような「あなたとわたし」は、永遠に交わることがないのだろう。
学校の帰り道。
泥だらけのように見えるランドセルが雨に濡れて光っている。
新しく買った服が泥だらけになっている。
お気に入りの靴を通って靴下まで濡れてしまって気持ちが悪い。
傘がないのに急に降り始めた雨。
それは、私を辛くさせるとともに私を肯定して励ましてくれるような温かくて「柔らかい雨」だった。
誰にも認められず、誰にも愛されない。
みんなみんな私を好奇の目で見て笑う。
そんな時に出会ったあなたは、私の心の支えだった。
笑われていても間に入って止めてくれるし、愚痴だって聞いてくれる。
素敵な笑顔と艶やかな髪にお洒落な服装。
そして・・・どんなことがあっても挨拶をして、いつもと変わらず過ごしてくれる。
いつまでもあなたと一緒にいたい。
カーテンの隙間から差し込む光を見ながら、そんなことを考えていた。
この暗い部屋に手を伸ばしてくれるのも、私の心に触れてくれるのも、もしかしたらあなたなのだろうか。
考えても仕方がない。もしかしたらなんとなく手助けをしているだけなのかもしれない。
それでもいい。
だって、私にとってあなたは私の冷めた心に触れてくれる、この部屋を照らしてくれる、「一筋の光」なのだから