バスに揺られていく。住宅が見える場所から、いつのまにか山の中に入っている。ぐるぐると旋回しながら、どんどん登っていく。
気分が悪くならないように、バスが揺れる方向にぐいっと体を傾ける。雨上がりの道を、タイヤが、ジャリジャリというような音をたてる。
右、左と揺れていると、バス停があった。こんな山奥で降りてどこに行くというのだろう。バスは、そこに停まらず通り過ぎた。するとぱっと視界が開けた。さっきまで見た街が下の方にぼんやりと見える。
遠くの山に、ふわりと、もやがかかっていた。ゆるゆると動いている。下の街から、言葉にならないような数々の思いたちが集まって、もわっと湧き出ているようだった。
バスを乗る前から抱えていた思いも、ふぅーっと一本の筋になって、その谷間に吸い込まれていった。
「言葉にできない」
いつのまにか、明るい日差しが降り注ぎ、花が咲いている。桜は薄ピンクのもやを作り、黄色い花が下を埋め尽くす。
枯葉に覆われた地面は、黄緑色の草がそよいでいて、枝だけの木に新芽が芽吹く。辺りは瞬く間に、華やいで色に包まれる。
それをぼんやり見ていると、光の合間に、何かふわふわした小さなものが、ふんわりと降り注いでいる。幸せという世界があるとしたら、こんな景色をいうのかもしれない。
「春爛漫」
誰よりも、ずっと見てきた。いつのころか、とても嫌っていることに気付いた。嫌いで仕方がない。時々、すごく責めて、いじめてしまう。
思うようにならないから。理想とはまったく違うようにしかできないから。でも、そんなことを重ねていると、よくないとさすがに思うようになってきた。
大切でもある。守らなければならない。誰よりも、ずっと付き合っていかないといけないのだ。仕方がない。これが自分なのだから。
「誰よりも、ずっと」
生きているうちに、これからもずっと続くのだろうと思っていたのは、幻想なんだと気づいてくる。色々と変わってきた。ああ、この状態がずっと続いたらいいのにと思っても。
友達だって、好きな人だって。世の中も。ずっと同じなんてことはなかった。何かと変わっていく。その変化に、一生懸命、意識していなくてもしがみついていく。時には、何だか疲れると思うこともある。
でも、変わり続けるから良い事もあるのかもしれない。よくない状態だって、変わるかもしれないのだから。変わるからこそ面白いのだなと思えたりすると、ちよっと大人になった気がする。
「これからも、ずっと」
桜が満開だった。ところどころに黄緑色の新芽も混じる。ひらひらと落ちる花びらも美しく、桜周りが、にぎやかだ。ふと見上げると、傍の建物の上から見ている人の、いくつかの頭が見えた。
桜が見えるのかもしれない。上がってみることにした。最上階にあるテラスのようなところに出ると、以外と下が見にくい造りになっていた。真下にある桜は、見ることができない。
代わりに、真正面に大きく夕日が見えた。遠くの山あいにちょうど沈もうとしている。
飴色の夕日は、今日一日の色々なことを、ザバーっと、のみこんだかのようだ。それをすべて流すかのように、山あいにトロトロと溶けていく。
「沈む夕日」