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 バスに揺られていく。住宅が見える場所から、いつのまにか山の中に入っている。ぐるぐると旋回しながら、どんどん登っていく。

 気分が悪くならないように、バスが揺れる方向にぐいっと体を傾ける。雨上がりの道を、タイヤが、ジャリジャリというような音をたてる。

 右、左と揺れていると、バス停があった。こんな山奥で降りてどこに行くというのだろう。バスは、そこに停まらず通り過ぎた。するとぱっと視界が開けた。さっきまで見た街が下の方にぼんやりと見える。

 遠くの山に、ふわりと、もやがかかっていた。ゆるゆると動いている。下の街から、言葉にならないような数々の思いたちが集まって、もわっと湧き出ているようだった。

 バスを乗る前から抱えていた思いも、ふぅーっと一本の筋になって、その谷間に吸い込まれていった。
 

「言葉にできない」

4/12/2026, 8:21:14 AM