日曜日の夕方、二人で賑やかな場所を抜けて、ビルの一角に迷い込んだ。さっきまでの喧騒が嘘のようだ。しんと静まり返って、高い天井と、広い通路、無機質な壁が続いている。
まるで、その壁に人々がすーっと吸い込まれたのではないかというくらい、人の気配がない。しーんとした空間がずっとある。もしかしたら、外に出ると、誰もいなくなっているのではないか、という気がしてくる。
二人で交わす言葉だけが、壁に当たって落ちてくる。この空間に、二人ぼっちだ。
「二人ぼっち」
風はまだ冷たいけれど、明るい日差しの中をぶらぶらと歩く。隣にいる君は、今日はなんだかご機嫌だ。にこにこして、よく笑う。
その場限りで、すーっと消えてしまうような会話をして、ただ歩くのがこんなに楽しいなんて。
何の花だろうか。冬を超えた木に、かわいい白い花がぽっぽっと咲いている。足元には、黄色い水仙がゆれていて、なんて穏やかなんだろう。
いい香りがふいにしてくる。見ると沈丁花の花が咲いていた。甘く清々しい香りに包まれながら、これは夢だろうかと思う。ああ、今なら言える気がする。思いを打ち明けてみようか。
「夢が醒める前に」
好きな人との待ち合わせほど、胸が高鳴ることってあるだろうか。待ち合わせ場所に向かう電車に乗る。車窓から見える景色は、いつもと変わらないはずなのに、ふわふわして見える。車内アナウンスも、遠くで聞こえる気がする。
シートに深く腰掛けていても、一センチくらい浮いている感じがする。だんだんと降りる駅が近づいてくる。急に、変な顔してないか気になったり、自分の服を見てそわそわする。
とうとう電車が待ち合わせの駅に着く。ホームに足をつけながら、胸の鼓動が早くなる。待ち合わせ先は、改札の向こうだ。人並みに合わせて歩きながら、ちらっと君の姿が見える。この胸の鼓動がばれないように、笑顔になって足を早める。
「胸が高鳴る」
人には色々な役割があると思えばいいのだろうか。その立場でいることに、何か意味があるのかもしれない。何かの課題を乗り越えるためにあるのかもしれない。
これは不条理だと、真っ向から受け止めてしまうばかりだと、不条理というワナにずぶずぶと浸かっていくだけのような気がする。
側から見ると、不条理だと思うものも、当の本人にとっては、そうではないかもしれない。見ているとやるせなくなる。そんな思いも側から見ている人のものかもしれない。
「不条理」
悲しい時も、うれしい時もよく泣く人は、感情がすぐ表に出る感じでいいなと思う。
もともと、あんまり人前では泣かなかった。たまに泣いたとき「何で泣くの」とクールな顔で言われたのが、ずっと引っかかって、もっと泣けなくなった。
誰も見ていないところでは、涙していたけれど、この頃はその涙もあまり出なくなってきた。でも、泣くと、なんだかすっきりする。きっと、たまには必要なことなんだと思う。
多分これからも、泣かない。でも、誰も見ていないところで、こっそりと思いを流す。
「泣かないよ」