スーパーの花売り場を通ると、何となく気分が華やぐ。色々な季節の花が種類ごとに小さくまとめられて売られている。うっすらと花の香りが漂う。その中から一種類、選んで買うこともある。
時々花束も売っている。色々な種類の花が一つにまとめてあると、一層華やかだ。その日は、小さめの花束がいくつか作ってあった。チューリップを中心に小花があしらわれている。春らしくて思わず目を奪われた。
ふと、買おうかと思った。誕生日でも記念日でもないけれど、自分に花束を贈ろう。その小さな花束をそっと取り出した。いつもの買い物かごが、一気に華やかになった。
「花束」
笑顔の人はステキだ。自分の笑った顔は、あんまり好きではない。いつも笑っているような目元に憧れていた。三日月のように見える目がいい。なんとも柔和に見える気がする。
鏡をみながら練習してみる。どうやっても眩しそうな目か、眠そうな目になるだけだ。仕方がない。もともとの目の形が違うのだから。
せめて口元できちんと笑いたい。口角を上げるといいのだそう。口角を上げるってどうするのだろう。考えると分からなくなる。とにかくにっと笑ってみる。変だ。なんだかひきつってみえる。
あんまり変だったから、つい、あははと笑ってしまう。すると、目元も緩んで見えた。本当に笑う時は、ちゃんと色々なところが緩んで、楽しそうな顔になるのだ。
やっぱり笑顔を見ると、幸せな気分になる。どんなカタチの笑顔だって、まあいいかな。
「スマイル」
夜中に、外でなにか音がしたような気がした。起きて、カーテンを少し開けて外を見ると、雪が降っている。
右から左から舞い回り、くるくると螺旋状に途切れることなく落ちてくる。しばらく飽きずに見ていた。静かだ。さっきの音の主は分からない。
目の前には、たくさんの家やマンションが立ち並び、雪と眠りの気配で覆われている。
そのうちの一つの窓が開いたような感じがした。影がベランダで動いている。激しく舞い回る雪のベール。ん?
珍しい雪は、妙に心を騒がせる。そっとカーテンを閉めた。
「どこにも書けないこと」
毎日、お世話になっているのに、普段は存在自体をあんまり意識していない。リビングの壁でずっと動いている時計がある。
それが突然、カラカラと音を出しだした。時計の針がぐるぐるとまわっている。何周かしたら、ピタッと今の時間になって普通に動く。
以前、こうなった時に時計が壊れたと思った。カラカラと回る頻度が増えてきて、そのうちに秒針の刻みが一足飛びになった。そして何日かすると、ピタッと時計が止まった。
いよいよその時がきたと、時計を外して裏返すと電池に気づいた。あ、そうか電池か。そんな基本的なことを忘れていた。入れ替えるとまた、無事に動き出した。
ぱたっと止まるのではなく、電池がないことを段階的に教えてくれるのだ。何となく時計が、けなげに見えてくる。今度は早めに入れ替えようと、壁からそっと外した。
「時計の針」
ほっとくと、溢れ出てしまう思いを、持て余している。なんでもないような顔をして、隠している。目に、表情に、仕草に出てしまっているかもしれないのに、必死に何でもない顔をする。
そうすればする程、じわじわと溢れ出る気がする。何でバレたらいけないのだろう。どうして素直になれないのだろう。よく分からないけれど、とても恥ずかしくて。とにかく隠そうとする。
心の奥深くでは、バレてしまってもいいのではと思ったりもしている。でも、いざとなるとまた慌てて、方々から思いを隠そうとしてしまう。
「溢れる気持ち」