大好きなたったひとりの親友がいた
見た目も違うし、あらゆる物の好みも違うけど
考えとか、心の形とか
そういう目に見えないものが、とてもよく似ていた
泣かないで、なんて言われても
どんなに理由を誤魔化しても
涙が止まらない理由はあなたな訳で
あなたに嫉妬してしまったことが
あなたの幸せに手を伸ばしかけたことが
自分が酷く自己中心的な人間になったようで辛くて
こんなにも心が狭かったんだ、って思えて
申し訳なくて
不意に吹き抜けていった冷たい風に
嘲笑われているようだった
人生がどうでもよくなってしまった
必要のないことに疲れすぎた
命が生きたいと言っていた輝かしい日々
あんなにも激しく打ち付けられていた拍動が
今は胸に手を当ててもなにも感じないほどに
抜け落ちるように、「生きたさ」を忘れてしまった
ああどうか
どうか、次は
死にたくないと思える時間を
冬の始まりのように冷たかった時間を
凍りついて動かなくなった私の心臓を
死ぬ間際に、まだ生きたいと思える人生を
epilogue
ススキの葉にふれると、指を切ってしまうよ
だからあまり近寄ってはいけない
彼はそう言って、私の手を引いた
途端、胸に不思議な気持ちが溢れる
暖かくて、柔らかくて
ずっと求めていたもの
口を開こうとして、それを頭がぐんと引き留めた
私の言葉は、まるでススキだ
誰かを褒めようとしても
反省の気持ちを表そうとしても
解決策を提示しようとしても
誰にも伝わらなくて
端からみれば口が上手くても
本音はどうしても伝えられない
結局怒られて
誰にも見てもらえなくて
そんな自分が大嫌いで
消えてしまいたくて
死にたくて
また二の舞になるのかな
そう思うと、話せなかった
ここで何て言えばいいのかな
彼と繋がった肌が暖かくて
離して欲しくなくて
何て言えば、傍にいてくれるかな
またうまく伝えられない気がして、口を閉じた
僕に寄ってくれるように、君の手を引く
途端、指先が強張る
横目にみていると、君は口を開こうとして
また閉じてしまった
君はきっと、うまく伝わらないと思ったんだね
僕はそんなこと気にしないけど
君が傷ついてきたことを知っているから
無理に聞き出そうとも思わない
だけど、いつか君が好きと伝えたいと思ったなら
その言葉を、僕にだけ伝えて欲しい
選ばれた悪魔は呟いた。
人になりたい、と。
合せ鏡の片割れは、頭の良い子に育てと言った。
合せ鏡の片割れは、優しい子に育てと願って名前をつけた。
時が経ち、合せ鏡の真ん中に生まれた悪魔は呟いた。
生まれてこなければよかった、と。
眠る前、僕は貴女を想う
煙を僕に吹き掛け不敵に微笑む紅い唇
セブンスターに添えられる長くて白い指
目立たない緑色がガラスのように光る爪
眠る前、私はあの人を想う
流行りに囚われず、好きな色に染めた髪
低いのに耳に馴染む魅惑的な声
血管が張ったセクシーな腕
シトラスの香りがする首
全てを見透かされるような黒の瞳
寂しそうに光る青色の石がついたピアス
母性をくすぐるような、笑顔の時に覗く八重歯
眠る前、僕は貴女を想う
眠る前、私はあの人を想う
貴女も僕を想っていれば
あの人も私を想っていれば
そう考えながら、眠りにつく。