愛と言うものは、とても不条理なもので………僕にとっては、まるで鎖のようなものなのだよ。
彼はそういうと、原稿を綴る手を止め、煙管を吹かした。
月夜に揺らいで消える紫煙が、彼の顔を隠す。
煙の向こうの表情をみたくて、それが素顔であるような気がして、私は手を伸ばした。
「僕に触れたいのか?」
「ええ。素顔が、見えそうな気がしたので」
彼は能面のような笑顔を浮かべ、私の頬に口づける。
「…君が言うのなら、そうなのかもしれないな」
彼はそう呟くと、灰を落として原稿に戻ってしまった。
ふと、考えてみる。
私を抱く時の強い腕も、甘えるような声も表情も、その全てが不条理で出来た、鎖のような愛なのだろうか。
もしそうならば、抗いようの無い運命ならば、どれ程良いだろうか。
それとも、貴方を取り巻く全てが不条理であったように、私に向けられる気持ちも……
貴方が言う、「不条理」なのだろうか。
もしも千年の時を超えるような恋愛のあとに平穏な日常を手にしたとして、その恋人は死ぬまで一緒にいるのだろうか
千年超えたわりになんか合わなくね?
ってなるのだろうか
千年超えた甲斐があったわぁぁ!!
ってなるのだろうか
お風呂で浮かんだ疑問
1000年先、私の骨はどうなっているのだろう
2000年先、私の骨はどうなっているのだろう
心臓が止まったら、人は死ぬのだろうか
過ごしていた場所が消えた時、人は死ぬのだろうか
恐竜の骨は固まり、地殻でオパールとなる
そのオパールを見たとき、人々は古代を彷彿とする
それならば、私自身がオパールになればいい
オパールを見たとき、人々は私を思い出すだろう
時が流れ、全ての世界から私のいた痕跡が消えても
オパールさえ残れば私は生き続けることになる
願わくは、オパールとなりたい
もしも叶うなら、私はオパールになり
永遠を生き続けたい
オパールの記憶
3XXX年 ○○ビル跡遺跡 発掘
愛を注いで頂戴?
私の器は、いつまでたっても満たされないから
器は、どこまでも限りない
どれだけ注いでも、まだ求めてしまうから
そんなに甘い言葉をくれるなら
それを全身で感じさせて
唇の味
汗の匂い
ビー玉みたいな瞳の色
風が頬を撫でるような声
桃のような頬の手触り
砂糖みたいな言葉を吐くより
さっさと心で伝えてよ
ねぇ、壊して頂戴?
私の器は、ずっと前から底が抜けているのだから
こんなにも心を締め付けていなくなるくらいなら
空虚な思い出に味をつけていなくなるくらいなら
いっそのこと全て、壊して頂戴?
「どうせなら全部消えればいいのにね」
心と心が触れあっていて
この人のことを知ったつもりでいても
全く知らない一面がちらりと顔を出す
いわば表裏一体
巡る季節のような一面を見せる
「希望も望みもないなら、いちから全部やり直し
さっさと死んで終わっちゃえばいいのに」
触れた優しさの分
この人の心の傷が見えるような気がする
自分の傷を癒せないから、誰かの傷を癒している
この人の痛々しいまでの優しさに溺れて
身動きもとれなくなって、やっと
根底に眠る空虚な部分を目の当たりにする
ああ、この人はからっぽなんだ
何もなくて、何も要らなくて
滑り込む隙間もないほど固い扉を閉めた心
誰も干渉することが叶わない場所
それに触れたいとは思わない
近寄りたいとさえも思わない
ただ、この人に傷を癒してもらえるままの関係で
そんな関係でいたい