愛と言うものは、とても不条理なもので………僕にとっては、まるで鎖のようなものなのだよ。
彼はそういうと、原稿を綴る手を止め、煙管を吹かした。
月夜に揺らいで消える紫煙が、彼の顔を隠す。
煙の向こうの表情をみたくて、それが素顔であるような気がして、私は手を伸ばした。
「僕に触れたいのか?」
「ええ。素顔が、見えそうな気がしたので」
彼は能面のような笑顔を浮かべ、私の頬に口づける。
「…君が言うのなら、そうなのかもしれないな」
彼はそう呟くと、灰を落として原稿に戻ってしまった。
ふと、考えてみる。
私を抱く時の強い腕も、甘えるような声も表情も、その全てが不条理で出来た、鎖のような愛なのだろうか。
もしそうならば、抗いようの無い運命ならば、どれ程良いだろうか。
それとも、貴方を取り巻く全てが不条理であったように、私に向けられる気持ちも……
貴方が言う、「不条理」なのだろうか。
3/18/2023, 1:09:19 PM