孤独とはあたたかいものだ
誰にも傷つけられず、また誰も傷つけることがない
そうやって私は、全ての人から隠れてきた
触れられたくない心の深い場所
図書館のように膨大な量の思い出をしまいこんで
毎日過去を辿りながら、たった一人で
孤独とはあたたかいものだ
それでいて、ひどく物悲しい場所だ
私に気持ちを向けてくれる人がいるのなら
そんな人が現れてくれるなら
私の世界に踏み込む人がいるなら
私に、廻り逢う運命の人がいるのなら
そんな期待を捨てきれない私は
愚かなのだろうか
窓の外、広がる街並みをうつろに見つめて
そうやってたそがれていても
何も変わらないというのに
胸のあたりでこわばった恋心
はりつめ、いつか切れてしまいそうな良心
あの人の好きな人だから、傷つけてはいけない
そう分かっていても
隣にいるあの子の柔らかい笑顔が
平原に吹く風のようになめらかな声が
ヒールをはいている時によたつく足元が
全てが不快でしかたない
窓の外、広がる街並みをうつろに見つめていても
結局何も変わらないというのに
それでもただ
たそがれつづける
まだ終わらない時間の波間
触れることもなく
また離れることもない距離
文字と声
わずかな紫煙のやりとりを重ねて
心地いいとはいえなくとも
楽な関係
きっと明日も
変わらずに
ただ、変わらずにいてくれたら
「うん、うん・・・来週にそっちに行くから」
受話器越しに、あなたの声が聞こえる。
まるで波のように柔らかく、鈴を転がすように笑って私の心を癒していく。間接照明が照らす造花は生花のように生き生きして見えるし、光を反射する時計のガラスも夜景のように綺麗に見える。薄暗いだけのマンションの一室もどこか心地よく、私をとりまく世界の全てが暖かいものに思えてくるのだ。
「じゃあ、おやすみ」
「・・・うん、おやすみなさい。」
そう呟くと、無情にも通話が切れる。
1時間以上話していたのだ。緊張とどぎまぎした気持ちが途切れ、私は小さなため息をついた。少し目を閉じて、しばらくの後目を開ける。するとそこには、やはりいつも通りの部屋が広がっていた。間接照明の下、テレビ台の上に置かれたかすみ草の造花。アンティークの時計。全てがいつもと変わらない。あなたの声が消えた部屋は、日常よりも少し寂しく、物足りない。
あなたが残した孤独な静寂だけを、ただひたすらに感じていた。