aeru

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「うん、うん・・・来週にそっちに行くから」
受話器越しに、あなたの声が聞こえる。
まるで波のように柔らかく、鈴を転がすように笑って私の心を癒していく。間接照明が照らす造花は生花のように生き生きして見えるし、光を反射する時計のガラスも夜景のように綺麗に見える。薄暗いだけのマンションの一室もどこか心地よく、私をとりまく世界の全てが暖かいものに思えてくるのだ。



「じゃあ、おやすみ」

「・・・うん、おやすみなさい。」

そう呟くと、無情にも通話が切れる。
1時間以上話していたのだ。緊張とどぎまぎした気持ちが途切れ、私は小さなため息をついた。少し目を閉じて、しばらくの後目を開ける。するとそこには、やはりいつも通りの部屋が広がっていた。間接照明の下、テレビ台の上に置かれたかすみ草の造花。アンティークの時計。全てがいつもと変わらない。あなたの声が消えた部屋は、日常よりも少し寂しく、物足りない。

あなたが残した孤独な静寂だけを、ただひたすらに感じていた。

9/29/2022, 7:02:04 PM