谷茶梟

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5/23/2023, 8:46:32 AM

昨日へのさよなら、明日との出会い
(宝石の国二次創作)
昨日、デマントイドガーネットとショールが拐われた。昨日?もっと前だったかもしれない。二人がいなくなってからの時間は止まったようで、長くも短くも感じられた。
(俺っち、これからどうなるのかな?)
単純につまらなかった。つまらないと感じると、二人がいなくなったことを思い出して、気分が沈んだ。同い年と弟を同時に失くしたのだ。誰を頼ればいいのか分からなかった。
(でも、このままなんて俺っちらしくない)
いつでも上を向いていたかった。くよくよするなんてバカのすることだ。俺っち、バカだけど。バカだから、なんでもプラスに考えたかった。
「マラヤ、俺っちと組もうぜ!」
二人のいた昨日とさよならした。今身近にある明日を大切にするために。後ろは振り返らない。叶わない願いは祈らない。

5/22/2023, 7:39:57 AM

透明な水
(宝石の国二次創作)
器に水を汲み、水鏡を作る。それを持って、シンシャを探しに行った。私はシンシャの顔が好きだ。脆い石に刻まれた、繊細な顔を美しいと思う。シンシャは夜に閉じ込められているから、きっと自分の顔など見たことがない。だから、私の大好きなその顔を、見てもらいたいと思った。
「物好きでお節介な奴だなお前は」
会って用を話すと、シンシャは顔を顰めてそう言った。それでも、私の差し出した水鏡を、しばらく見つめていた。
「……俺の顔が美しくても、俺は透明な水も濁らせてしまう」
シンシャは映った自分の顔に触れようとして、やめた。そうして、何も言わずに去ってしまう。傷つけただろうか。物好きでお節介だとしても、全てを汚してしまうのだとしても。君は美しいと、そう伝えたいだけ。

5/19/2023, 11:35:52 AM

突然の別れ
(宝石の国二次創作)
「君は足の負傷がまだ良くないから、今日はお留守番しているんだよ」
そう言い残して、クリソベリルは見廻りに行った。突き抜ける青空が眩しい、よく晴れた日。私は池の淵で、上手く動かない足を水に浸けて遊びながら、クリソベリルの帰りを待っていた。池を泳ぐクラゲの名前、空を流れる雲の名前、水は冷たくて寒くなると凍ること、全部クリソベリルから教わった。おさらいをしながら、帰りを待つ。
「…………ごめんなさい」
ボロボロのアレキちゃんが、帰ってきてそう言った。クリソベリルは帰ってこなかった。あの日から、私の足は動かない。

5/18/2023, 10:48:11 AM

恋物語
(宝石の国二次創作)
「そんな長いこと片想いしてて、嫌にならないのか?」
「??全然」
可笑しなことを訊く。相方のラリマーは、怪訝そうに僕を見る。僕がカラカラと笑うと、より一層。
「本当にお前は変なやつだ。実らないことばかり追い求めて」
「恋も研究も、結果だけを求めちゃお終いさぁ」
僕の恋も、死への研究も、何ひとつ成功しちゃいないが。それで嫌いになったり、興味を失うことなんてない。むしろ一層、愛しさが募るものだ。
「恋も知らないお子ちゃまには、分からないだろうねぇ」
「俺をお子様呼ばわりとは、いい度胸だな」
ラリマーを揶揄いながら、風に吹かれる今日はいい日だ。たとえ君がいなくとも。

5/17/2023, 11:11:11 AM

真夜中
(宝石の国二次創作)
誰もが寝静まった真夜中、後ろめたさを抱えながら部屋を抜け出す。先日、ーーが連れ去られた。もうはっきりと顔を思い出せない自分に寒気がした。一階に降り、外を眺めながら歩くと、保健室の窓の縁で遠くを見つめるパパラチアに会った。
「……あぁ、お前か」
パパラチアは力なく笑う。起きてきた理由を、僕に問うことはなかった。
「ここにいるとさ、落ち着くんだよ」
そう、特に意味もない嘘を溢した(嘘であるとはっきりと分かってしまった)。誰も彼を責めないのに、きっと彼は自分を責めているんだろう。
「お身体に気をつけて」
そうとだけ告げ、僕は夜の中をまた進む。

仲間の喪失に眠れなくなるのが、僕だけだと何故錯覚したのだろう。虚の岬まで歩いてきた。先客がいた。イエローは虚ろな眼で、打ちつける波が崩れるのを見ていた。
「……あぁ、お前か」
ぼんやりとまだ気付いていないかのように、力のない声で言った。僕と分かっているのか疑問だ。
「ここにいるとさ、落ち着くんだよ」
こんな寂しい場所が落ち着くのだなんて。それは嘘ではなかった(それはなんて悲しいことなのだろう)。今にも飛び降りそうなイエローを、そっと掴んで大地と結びつける。
「帰ろう」
イエローが意味を理解するまで、僕は帰ろうと言い続けた。夜を抜け出すように、空が明るくなる。星が消える頃、僕たちは学校に帰った。

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