どこかで迷子の子羊の鈴 チリンと鳴った
仲間の鈴の音は聞こえない。
チリン、チリン…
黒い狼が草陰から子羊を見つめる。
仲間からはぐれないための鈴の音が
つけ狙う者に存在を知らせる。
「ベルの音」
薄蒼い夕暮れ時、白い息を吐きながら、窓の外にある棚に積もった雪を、寂しさを込めて丸める。
そうやっていくつも雪玉を作り、それを重ねると
小さな四つの雪だるまになった。
夜は凍るような寒さ。
わたしの寂しさたちは窓の外に並んでる。
朝になり、カーテンを開けると、わたしの寂しさたちは朝日に照らされてキラキラと輝いていた。
やがて気温が緩むころ、雪だるまは形をなくし、跡形もなく消えるのだろう。
そしてわたしの寂しさも、いっしょに連れてってくれるのだろう。
「寂しさ」
真っ白の雪景色の中を白サギが飛んでた。
冬は景色と一緒になるんだねえ。
「冬は一緒に」
僕らは毎晩星の上で会う。
絵に描いたような星の右肩にきみ
左肩に僕。
きみはホットティー
甘党の僕はココアを手に
星空の中で
とりとめもない話を夜中してる。
だけど朝が近くなった頃
なぜか僕の姿は追いやられて
僕のいた場所はマレーバクになりかわられてしまう。
僕は覚えているけども
目覚めたきみはどこまで覚えているのだろう。
夢の中で毎晩会う僕のことを覚えているだろうか…
「とりとめもない話」
参考 : 12/4「夢と現実」
俺は視える。
幽霊ではない。
なんだ?あれは?
風邪おばけ?とでも言おうか。
風邪をひいてるやつに憑いてるやつ。
今日もいろんな人の肩の向こうに憑いてるのが視える。
今朝においては友人の安田の肩にまで憑いていた。
「ぶへっっくしょいっっ!!」
安田が豪快なくしゃみをする。
「やめろ。」
おはようよりも前に迷惑そうな顔をして安田の出した空気中の飛沫を払う。
「なんだよー。つれねーなー。」
ずるずる。
個包装の使い捨てマスクを差し出す。
「迷惑だからつけとけ。」
「あー?1回くしゃみしただけだろー。」
ずるずる。
俺は呆れ顔でそれ以上言うのをやめたが、安田の肩口には例のおばけが憑いている。
濃さはふつう。
これがもっと薄かったら、あるいは憑いてなかったらその1回のくしゃみだけで終わるかもしれないが、そうでもなさそうだ。
とはいえ今は肩口に憑いてるだけなのでたいしたことはない。
が、ちゃんと風邪にはなってしまっているから正直あんまり近づいてほしくない。
フッ。
おばけが安田の首筋に息を吹きかけた。
ぶるぶるっ。
「わっ。今ちょっと寒気した。」
(だろうな。)
「帰れば?」
迷惑そうに俺が言う。
「えー。せっかくきたのにー?
冗談言うなやー。」
安田はがははと笑った。
こいつのいろいろ気にしない明るいとこはいいとこなんだがこういう時は困る。
(まあ、まだこれぐらいなら…)
そう思っていたら、1コマの終わりには安田はぐったりしていた。
「なんかだるおも〜。」
机に突っ伏す安田を、おばけが覆っている。
わざと少し離れて座った俺は
「だから帰れって。」
と冷たく言った。
実は気にして時折見ていたのだが、
おばけは肩口から背中の真ん中に移動し、
しだいに息を吹きかける回数を増やしていた。
今はすっかり安田に愛おしそうに抱きついてしまっている。
「熱、出てるかも。
今出てなくてもどうせ出るから。」
「えー。やなこと言うなよー。」
(しょうがない。
ほんとは2コマ目も出たかったんだけど…)
ピコンッ。
安田を連れて帰ろうとする俺に、次の授業は休講になったとメッセージが入った。
どうやら先生も風邪をひいたらしい。
安田がしないから俺がマスクをして、安田を家に連れて帰った。
安田の家は意外と片付いている。
「いつでも女の子連れ込めるな…」
と俺が言うと、
しんどそうな顔で、
「でしょ。」
と親指を立てて笑った。
安田を家に置いて俺はいろいろ買い出しに出かけた。
(それにしても………)
安田を連れて学校を出た時から思っていたが、朝より格段におばけの数(風邪の人)が増えている。その事実に俺はゾッとしながら、棚に並んだ鍋焼きうどんに手をかける。
(あいつ、俺が倒れた時治ってたら面倒見てくれるかな…)
「風邪」