sunao

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12/15/2024, 9:18:12 PM

「あ?何?
 早く降りたい?

 あー、もー、散々聞いたって。
 黙って待ってろ。」

雲の上、耳打ちしてくる雪の子の1人に、銀髪に鎧を纏った冬将軍が言いました。
雲の上には雪玉に手足が生えたような雪の子たちがたくさん。
ゆっきー
ゆっきー(はやくふりたい)
と騒いでいます。

毎年雲の上で冬将軍は彼らと鉢合わせ、そして同じような状況になるのです。

ゆっきー
ゆっきー
雲の上で楽しそうにぴょんぴょん跳ねる雪の子たち。
そのうちの1人が待ちきれず、雲の隙間からぴょんっと飛び降りました。
それを見た何人かも続いてぴょんっ、ぴょんっ。

「ああ!待て!」
ゆっきーーー………
声が遠ざかります。
「今から行っても霙になるだけなのに……」
はあっ、とため息をつく将軍。
「いいか?あいつが合図を出すまで行っちゃ駄目だ!」
遠くにいる雪おこしを指さして、冬将軍が言いました。
ゆっきー…
「大体何でみんな毎年俺の周りに集まるんだ。
 合図を出すあいつの周りにいればいいだろ。」
ゆっきー
ゆっきー(だってこわいから…)
雪おこしは雷なので、雪雲の帽子を被った鬼のような風貌の男なのです。
「だからって俺だって将軍で甲冑も纏ってんだから怖いんじゃないのかよ。」

ゆっきー!(こわくなーい!)
わいわいうれしそうにとび跳ねる雪の子たち。
はあ。とため息をつく将軍は、合図があるまで、なんだかんだ言いながらいつも彼らの世話をするのでした。




「雪を待つ」

12/14/2024, 10:29:40 PM

寒い寒いどこかの森の中、
開けた広い場所があって、その真ん中に大きなモミの木が1本立っている。

いつも夜通し夜空を飾っている星々は
クリスマスの日、その木にとまって憩う。
大きめの星たちがモミの木にとまると、
小さな星や星のかけらたちは、その場所をとり囲む木々にとまる。

冷たい風がびゅう、と吹くと、
星たちは
シャンシャンシャン
と、鈴のような音を出す。

そしてみんなの集いをいわって
大きな木の星のひとつが、チリン、と音を出す。
すると大きな木の星たちが次々音を出し、
キラキラとしたクリスマスキャロルのメロディが、その場所を包んでいく。




「イルミネーション」

12/14/2024, 1:18:34 AM

休憩に
コーヒーを注ぐ
紅茶を注ぐ
緑茶を注ぐ

勉強中のあのこに
ココアを注ぐ

眠れないあのこに
ミルクを注ぐ

かぜ気味のあのこに
レモネードを注ぐ

あったかい飲み物を注ぐ時
そこにある気持ち。




「愛を注いで」

12/13/2024, 5:35:50 AM

(あいつを…殺してやる…)
((だめよ!そんな!かわいそうじゃない!
 家族だっているかもしれないのよ!))
(家族?
 そんなもの!
 いるならそいつらもろとも皆殺しにしてやりたいくらいだ!)
((!!))

俺は凶器を持って振りあげた。
((…ふるえてるわ…
 ほんとはこわいんでしょ?))
(ああ、こわい。
 こわいともさ。
 でも、やらなきゃならないんだ。
 やらないととんでもないことになってしまうから…。)

俺は凶器のスリッパを振り下ろした。
部屋の隅にいた漆黒のアイツに………



「心と心」

12/12/2024, 1:05:30 AM

市街地の何階かにある俺の部屋。
カーテンも閉めず灯りもつけず
明滅する光と闇の狭間でうずくまる。

「さよならは言わないで。」
あの日彼女に言ったけど
別れは明確。

空っぽになった俺は幾日も眠れず
やがて夢と現実を彷徨いはじめる。

わけがわからない、
区別のつかない状態が
眠れないほどひどくなる。

部屋にいたはずの俺は今
ペンローズの階段みたいな
エッシャーの絵の中みたいな
階段がたくさんあるだけの空間で、
そのうちの一つを
逆さまになって歩いている。

ふつうに歩いてたはずなのに
いつ裏返ったのか。

部屋の片隅で小さな影がうずくまっている。
傍らには扉がある。
この部屋からの、もしくは次の部屋に続く出口だろう。
影は俺に扉の鍵を渡す。

(ありがとう、ごめんね。)

彼を置いていくのが気がかりだ。

手を差し出し、その手を繋いでいっしょに部屋を出るべきだっただろうか。
彼は俺とおんなじ、あそこに迷い込んだ仲間だったろうか。

ごめんね。
今なんにも考えられない。
なんにも判断できないんだ。

何でもないフリをして、俺は鍵を受け取り扉を開けて足を踏み出す。

そこにあるのはまだ続く混沌か
現実か。





170作突破記念
「何でもないフリ」

前回 12/2 160作目。
10作ごとぐらいにしている。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
インターバル的なもの。

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