「ああ、もうだめだ…
もうだめだ…」
「どしたん?」
ダーニーが言いました。
「聞いてしまったんだ…
今までなんとか見つからずここでやり過ごしていたけれど…
今度大掃除をするんだって!」
「ああ…」
「もうだめだ!!」
わっ、とわたぼこりんが泣き出しました。
「そうなんだー。ぼくは見つけてほしいんだけどな。」
そばにいたキラキラのスーパーボールが言いました。
「ぼくは夏祭りのすぐ後からずっとここにいるんだよ。
夏祭りの時はぼくを手にとってよろこんでいたから、
ぼくを見つけてくれたらきっとよろこんでくれるんじゃないかなー。」
「それはどうかな。」
冷たい声がしました。
「お父さんかお母さんに見つかっちゃったら捨てられちゃうんじゃない?
きみを手にしてよろこんでたのはどうせこどもたちだろう?
でもこどもたちなんて掃除のじゃまはしても手伝いなんてしないだろう?
だからきみは捨てられるのさ!」
自暴自棄になったわたぼこりんの八つ当たりです。
「そ、そんな……!」
キラキラスーパーボールもわたぼこりんといっしょに泣きはじめました。
「やれやれ…」
「ダーニーはどうしてそんなに落ち着いてるの?」
「そうだなあ。
ぼくはどうせ寿命が短いし?
そーゆーのはどーでもいーかな。
まあ、ほら。
けっきょくだれにも見つからないって可能性もあるんだし。」
「そんなのいやだ!
ぼくは、見つかってほしい!」
スーパーボールが言って、また泣きました。
うわああああ。
部屋の隅ではわたぼこりんとスーパーボールの泣き声が。
やれやれ。と頭を掻きながら、大掃除になったらどこに行ったら見つかりにくいかな。と考えるダーニーなのでした。
「部屋の片隅で」
「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…逆…さま」
人混みの中、変な声が聞こえてゆっくり振り返る。
見ると、まるでくるみ割り人形みたいな見た目の男が、首をコキコキ傾けながら呟いている。
「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…逆…さま」
この男の顔は逆さにしても騙し絵みたいに別の顔になりそうだ。などと思う。
コキッ、コキッ
斜め後ろの方がなにやら騒がしくなる。
そちらを見ると人混みができている。
(なんだろう…。)
人々の目線の先を見ると、高い建物の上に人影が見えた。
女の人だ。
屋上の手すりから外に出てしまっている。
人々は
「やめろ───!!!」
「早まるな────!!!」
など叫んでいる。
「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…………」
くるみ割り人形男もそちらを見た。
コキッ
その瞬間、どうやったのか、くるみ割り人形男は屋上にいた。
(えっ!!?)
そして、
「まっ逆さま!!!
逆さま──────!!!!」
とものすごい顔で言い、女の人を突き飛ばした。
ドンッッ
最悪な音がして、人々は呼吸を止めたように静かになった。
沈黙の中、この冬初めての雪がちらつきはじめる。
広がる赤い血に落ちては溶けていく。
沈黙の中、上空を飛ぶ飛行機の音だけがする。
ゴオ──────ッ
コキッ
男が上空を見る。
「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…」
「やめろ…………」
青い顔の俺は呟く。
「逆さま」
眠れないほど
おかしくなっていきそうだ……
ここ何日も眠れてない。
よく眠れたって思ったのはいつだっただろう。
眠れないからふらふらと夜に繰り出す。
部屋着にコートやマフラー着けて。
夜の真っ黒な町を歩いていたらいつか疲れて眠くなるだろう。
布団の中で眠れない自分と格闘するのは嫌なんだ。
そんなに遠出はしない。
夜の冷たい空気。
知ってる近場をうろうろと。
夜ってだけで不安なんだ。
あんまり不安になる事はしない。
とりあえずこの道を歩こう。
その次はここまで。
時にはコンビニに寄ってみたり。
夜の世界のコンビニほっとする。
明かりがついてて、ふつうにこの世界に人がいるのを確認できる。
ふかふかの肉まんとホットココアを買ったりして。
帰り道には星が出てるのを眺めながら。
夜の中をふわふわ歩いて、お腹の中があったかくなって、いい感じになった気がして家に帰ったりして。
でも布団に入るとなかなか寝れない。
横になってるだけでも違うの知ってるし、もう打つ手もないからそのままでいる。
とりあえず、目を瞑って、さっき纏った夜の空気を思い出す。
「眠れないほど」
気づいたら、星の上にいた。
星ってほんとに絵みたいな、とんがりが5つあるあの星。
その右肩にわたしがいて、左肩にはマレーバク。
マレーバクはホットココア、
わたしはホットティーを手に持っている。
黒い星空の中。
「あのー、すいません。
バクさんがいるってことは、ここって夢の中ですかね?」
わたしが尋ねると、バクは、瞑っていた目をわたしの側だけ開けてチラリとこちらを見て、また目を瞑り、フー、フーと、ココアに息を吹きかけた。
なにも答えないバクに、仕方がないからこちらもフーと息を吹きかけてホットティーを一口飲んだ。
ここがわたしの夢ならば、わたしの自由になるのかな?
思いついて手の中にクッキーの缶々を呼び出した。
キラキラと小さな星に包まれて、長方形のクッキーの缶が現れた。
フタを開けてバクに差し出してみる。
「はい。」
バクは目を開けて、ゆっくりとジャムクッキーを手にとった。
わたしはチョコチップココアクッキー。
サクサクとクッキーをかじり、紅茶を飲みながら、時折流れ星の流れる星空を眺める。
これは夢だよね?
バクは夢を食べるんじゃなかったっけ?
ココア飲んでるけど…
お腹いっぱいなのかな?
そもそも夢を食べるバクってマレーバク?
………
わたしっていつどうやって眠ったんだっけ。
どうやったら現実に戻るのかな。
まあ、いっか。
もう少しだけ、こうしていようか。
その時
クッキーと紅茶を食べ終えたバクが、立ち上がり、ふーっっと大きく息を吐きだして、そのあと
ズオーーーーーーッッ!!
星空の世界を吸い込みはじめた。
「キャーッ」
気づいたら、朝の光の差し込んだ、いつものベッドの上にいた。
「夢と現実」
空気が冷たく、乾燥してる。
ボクはこんな季節がだいすき。
人が歩いてる。
ボクは人もだいすきだからくっつこう。
あ、ボクの仲間がおててにいるね。
やっほー。
ボクはお口の中におじゃましようかな。
「ただいまー。」
「おかえりー。
手洗い、うがい、しなさいねー。」
「うん。」
え?
ジャー、ザバザバ
なに、この音。
『キャーッ!』
仲間の悲鳴?
ザバッ
うわっ、水がっ!
ブクブクブクブク
わあっ!かき回される!
ペッ
『キャアッ』
お外に出された!
「ばいばい、かぜバイキン。」
キュッ
ザーッ
『キャーッ!』
「さよならは言わないで」