「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…逆…さま」
人混みの中、変な声が聞こえてゆっくり振り返る。
見ると、まるでくるみ割り人形みたいな見た目の男が、首をコキコキ傾けながら呟いている。
「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…逆…さま」
この男の顔は逆さにしても騙し絵みたいに別の顔になりそうだ。などと思う。
コキッ、コキッ
斜め後ろの方がなにやら騒がしくなる。
そちらを見ると人混みができている。
(なんだろう…。)
人々の目線の先を見ると、高い建物の上に人影が見えた。
女の人だ。
屋上の手すりから外に出てしまっている。
人々は
「やめろ───!!!」
「早まるな────!!!」
など叫んでいる。
「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…………」
くるみ割り人形男もそちらを見た。
コキッ
その瞬間、どうやったのか、くるみ割り人形男は屋上にいた。
(えっ!!?)
そして、
「まっ逆さま!!!
逆さま──────!!!!」
とものすごい顔で言い、女の人を突き飛ばした。
ドンッッ
最悪な音がして、人々は呼吸を止めたように静かになった。
沈黙の中、この冬初めての雪がちらつきはじめる。
広がる赤い血に落ちては溶けていく。
沈黙の中、上空を飛ぶ飛行機の音だけがする。
ゴオ──────ッ
コキッ
男が上空を見る。
「ま…さ、か…逆…さま
ま…さ、か…」
「やめろ…………」
青い顔の俺は呟く。
「逆さま」
12/6/2024, 11:34:52 AM