わたしが片想いしているAくんは、よく窓の外を見つめる人。
その静かな横顔もきれいで、わたしはすき。
窓の外を見ている間は気づかれにくいから、わたしも彼の顔を見つめていられる時間になる。
今日も彼は窓の外を見ている。
窓とカーテンの間に立って。
窓際の席に座るわたし。
カーテンが風をはらむと彼の姿が見える。
カーテンが風に煽られ、ひらひらと、けどゆっくりと呼吸をするように揺れる。
彼が見える。
見えなくなる。
見える。
見えなくなる。
見える。
見えなくなる。
……………
階下で悲鳴が聞こえる。
彼はどんな気持ちでいつも窓の外を見ていたのだろう。
「カーテン」
月の上にて─
月にいるのは僕らだけじゃない。
とりあえず会ったことがあるのはレディとカニさんくらいだけど。
ある日、そのレディが大泣きして、涙でほんとに月の海ができてしまった。月の湖かな?
「わあ…」
静かに広がった水面の淵で、レディはまだ泣いている。
側でカニがうれしそうに鋏を上げて水で戯れている。
「レディさん、どうしたの?
なんで泣いているの?」
「なんで…」
レディは抑えていた手から離れて顔を上げた。
「なんでだったのかしら…
理由は、あったのかしら…
わからない…
わからないけど、…泣きたいわ!」
わっと、また泣き始めてしまった。
「…………。」
うさぎたちは顔を見合わせた。
帰り道、うさぎたちは話をした。
「女の人、むずかしいね。」
「うん。むずかしいね。」
「よく、わかんないね。」
「うん。よくわかんないね。」
「そのうち泣き止むかな。」
「うん。泣き止むよ。レディさんはいつもは素敵な笑顔なんだから。」
「湖、まだ大きくなるのかな。」
「どこまで大きくなるかな。」
「きっともう少しで止まるよ。」
「うん。そうだね。もう少しできっと止まるね。」
「………カニさん、うれしそうだったね。」
2羽は顔を見合わせて、ぷくく、と笑った。
「涙の理由」
参考 : 9/11「カレンダー」
9/17「花畑」
9/19「夜景」
9/28「別れ際に」
10/1「きっと明日も」
わたしの片想いの相手がとてもクール、というか表情のあまりない人なので、彼の気持ちがわからなくて、思いつめながら街を歩いていた。
もしかしたら疎まれているなんてこともあるかもしれない…。
そんな時、目の前に、" おかしな駄菓子屋 " というお店があったのでなんとなく入ってみた。
そこでわたしは『ココロがわかる実』
というのを買った。
なんだか危ないからという理由で、中身は一粒だけしか入っていない。
授業の終わった教室で、彼は机に突っ伏して眠っていた。
わりとよくあることだ。
いつもはそんな彼に声をかけて起こすのがわたしなのだけど、今日は実を使ってみることにした。
粒を口に含んで、眠っている彼を見続ける。
お店の人に言われたやり方。
しばらくすると、眠っている彼の背中の辺りから、なにかが出てきた。
心臓に手足が生えたようなものが、ピョコンッ、と彼の背中に立った。
そしてわたしをじーっと見ると、
急に、タップダンスを踊り始めた。
あまりの思ってなかったことに目を丸くしているわたしの前で、彼の心臓は真剣に、必死に踊っている。
そして最後に片膝をついて、わたしに花束を差し出してきた。
驚いていると、それらはすぐにさあっと消えて見えなくなった。
すごくうれしいけど、いろいろ予想外すぎて、しばらく身動きできなかった。
「ココロオドル」
参考 : 7/24「友情」
今日はおもしろい天気だ。
車で走っていたら、先の方で雲が溜まっているように見えた。
濃霧?視界不良とかやだな…
と思っていたのになんの具合かそこには掠らなかったみたいだ。
でも帰り道にはしっかり捕まった。
前方にまた見えてる。
この辺りに留まっているのかな?
と走っていると突然の大粒の雨。
どうやら雨のゾーンだったらしい。
通り抜けると空が晴れてくる。
雨の辺りはしっかり曇ってたから狐の嫁入りではないだろう。
高速道路の下り坂、
水色の青空と緑に包まれた町が
半分半分になっている。
雨に洗われて、空も緑もピカピカで、とてもきれいだ。
車が鍵の電池が無くなりそうなことを知らせてくる。
ラッシュ時にお店に寄るのはすきではないが電池が切れるのは嫌なのでしょうがない。
コンビニに入り、電池以外も少し買う。
レジにはおじさんと若い男の子。
すごく雰囲気がいい。
男の子は黒髪ツーブロマッシュに金のリングピアス。
だけどおじさんと和やかに話している。
なんていい空気だ。
キャンペーンか何かでお茶2本おまけでくれた。
田舎のコンビニ、最強かよ。
束の間の休息どころか癒しでしかない。
外に出たら大きな虹がかかっていた。
幸せすぎて鼻血出して倒れそう。
「束の間の休息」
バネッサの髪は剛毛だ。
言うことを聞かない硬い赤毛を太い三つ編みに編み上げて、
母親が
「さあ、できた!」
と言った。
鏡の前のバネッサは、きっ、と目を釣り上げた。
「行ってきます。」
箒に跨り手に力を込める。
箒がふわっと浮き上がる。
バネッサは今日から魔法学校に行く。
「力を込めて」