月の上にて─
月にいるのは僕らだけじゃない。
とりあえず会ったことがあるのはレディとカニさんくらいだけど。
ある日、そのレディが大泣きして、涙でほんとに月の海ができてしまった。月の湖かな?
「わあ…」
静かに広がった水面の淵で、レディはまだ泣いている。
側でカニがうれしそうに鋏を上げて水で戯れている。
「レディさん、どうしたの?
なんで泣いているの?」
「なんで…」
レディは抑えていた手から離れて顔を上げた。
「なんでだったのかしら…
理由は、あったのかしら…
わからない…
わからないけど、…泣きたいわ!」
わっと、また泣き始めてしまった。
「…………。」
うさぎたちは顔を見合わせた。
帰り道、うさぎたちは話をした。
「女の人、むずかしいね。」
「うん。むずかしいね。」
「よく、わかんないね。」
「うん。よくわかんないね。」
「そのうち泣き止むかな。」
「うん。泣き止むよ。レディさんはいつもは素敵な笑顔なんだから。」
「湖、まだ大きくなるのかな。」
「どこまで大きくなるかな。」
「きっともう少しで止まるよ。」
「うん。そうだね。もう少しできっと止まるね。」
「………カニさん、うれしそうだったね。」
2羽は顔を見合わせて、ぷくく、と笑った。
「涙の理由」
参考 : 9/11「カレンダー」
9/17「花畑」
9/19「夜景」
9/28「別れ際に」
10/1「きっと明日も」
10/11/2024, 12:13:44 AM