バネッサの髪は剛毛だ。
言うことを聞かない硬い赤毛を太い三つ編みに編み上げて、
母親が
「さあ、できた!」
と言った。
鏡の前のバネッサは、きっ、と目を釣り上げた。
「行ってきます。」
箒に跨り手に力を込める。
箒がふわっと浮き上がる。
バネッサは今日から魔法学校に行く。
「力を込めて」
あの頃きみは、色が白くて、くびれのあまりないしっかりとした足をしていて、よちよちとわたしに向かって歩いてきていた。
そんなきみをわたしは
「My little polar bear」
『わたしのかわいいシロクマちゃん』
と呼んでいた。
月日が経って
もうすっかりかわいいシロクマちゃんではなくなったきみだけど、
年頃の、毛並みの美しい狼のように瞬間、瞬間、時折思う。
そんな子に、部活のお迎えなんかの時に、すこし離れたとこで口をパクパクして、
(ちょっと待ってて)
など言われるのは、贅沢なような、もったいないような、無駄遣いなような、うれしいような、複雑な気持ちになってしまう。
これから先、きみが成長したら、わたしはどう思うのかな。
こどもはずっと、どう変わってもかわいいものなのかな。
「過ぎた日を想う」
「…カシオペア、
北斗七星、
オリオン座、
それでこれが秋の大四辺形。」
女の子は星座をなぞって、空にすうっ、すうっ、と指で線を描いた。
ただわかる星座をなぞっただけだったが、
その動きは、まるで魔法陣を描くようでも、
空を指揮しているみたいでもあった。
チリン!
北極星が揺れた。
ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラ・ソ
空のあちこちで、鈴のような音とともに星が揺れる。
女の子は驚きで目を輝かせる。
とたん、音の数がたくさんになる。
華やかなきらきら星のメロディとともに星たちが瞬く。
きらきらと、星たちが降り注ぐような夜になった。
「星座」
僕と彼女はカフェでお茶をしている。
窓の外を落ち葉が降るから
僕たちは小さくなってあの星の形の葉っぱに乗ってくるくると
カップの中で渦を巻いてるミルクに乗ってくるくると
踊りませんか?
そんな風に僕といっしょにこれからを過ごしませんか?
そう言うと、彼女は
「あなたは何を言っているかわからないわ。」
と言ってわらって、ミルクの入ったカップをかき混ぜた。
「でも、いいかもね。」
僕も自分のカプチーノに口をつけると、
口に泡のついた姿を見て、また、彼女がわらった。
「踊りませんか?」
メリーゴーランドぐるぐるまわる
巡り会うたび手を振るきみ
「巡り会えたら」