ジャングルジムのてっぺんに、形の無いものがいる。
形を持たないもの。
団地はぐるりと建物で、公園を取り囲むようになっている。
4階のわたしの部屋の窓から見える景色には、多くの部屋がそうであるように、その公園が見え、そのジャングルジムも見える。
秋になって公園の木々の葉が落ちても、
通り雨が降っても、
あいつは変わらずそこにあり続けた。
ある時、うちの家が家を建てて、その部屋を出て行くことになった。
荷物をすっかり運び終わり、
その場所との別れ際に、静寂に包まれた部屋で、あの公園をまた窓から眺めた。
きっと明日もその先も、あいつはあそこでこんな時間にはあんなふうにたそがれて、夕日を見ていることだろう。
なにかの奇跡をもう一度など、待っていたりでもするのだろうか。
誰かが来るのを、待っていたりするのだろうか。
夕日を見つめるあいつを見るのを最後に、もうあいつを見ることはないと、安心するような、だけどなんだか淋しいような、よくわからない気持ちになった。
100作突破記念 わあ、すごい!
といってもいつも通りで特別なことはない。
「奇跡をもう一度」
7/15 20作 7/27 30作 8/4 40作 8/14 50作
8/23 60作 9/3 70作 9/13 80作 9/23 90作
突破記念の続き。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
インターバル的なもの。
たそがれは
すべてを溶かす
空から青色がおりてきて、紫、赤、黄と夕暮れを溶かしていく。
色分けされたゼリーのように空が溶ける。
小さな三日月は空の割れ目。
逢魔が時の不思議なものたちがこぼれ落ちてくる。
すべてが溶けてまざってる。
たそかれたそかれ
となりはだあれ?
「たそがれ」
月の上でうさぎが二羽、ブランコを漕ぐ。
うさぎの前には青い地球が浮かんでいる。
「今日も地球が浮かんでいるね。」
「ああ、浮かんでいるね。」
「いつもとおんなじ場所に浮かんでいるね。」
「浮かんでいるね。」
「いつもとおんなじ景色だね。」
「あまり変わらないね。」
「明日もきっと変わらないね。」
「うん。きっと変わらないね。」
「明後日もきっと変わらないね。」
「うん。きっと変わらないね。」
「きっとずっと変わらないね。」
「うん。きっとずっと変わらないね。」
横に並んだ二羽のうさぎ。
一羽が前に出るともう一羽は後ろに。
互い違いになりながら漕いでいる。
「きっと明日も」
参考 : 9/11「カレンダー」
9/17「花畑」
9/19「夜景」
9/28「別れ際に」
静寂に包まれた部屋でドビュッシーの ' 月の光 ' をピアノで弾く。
「静寂に包まれた部屋」
月の上にて─
「ちょっと散歩に行ってくる。」
と言ったら、
紙でできたコップのようなものを渡された。
けっこう歩いた時、コップについてた糸がぴんと張った。
なんとなくコップを耳にあてると、
『きこえますか。
きこえますか。
どうぞ。』
と聞き慣れた声がコップの中からした。
「きこえてます。
きこえてます。
どうぞ。」
とコップに向けて話す。
『そっちの様子はどうですか。
どうぞ。』
「いつもと変わらない月の上ですよ。
どうぞ。」
どうぞ。どうぞ。と話し続ける。
何をしにきたんだっけ?
「別れ際に」
参考 : 9/11「カレンダー」
9/17「花畑」
9/19「夜景」