はっぱのぼうやは春に生まれて
黄緑の服を着て
風にゆられてそよそよ。
暑い夏には緑の色をこゆくして
みんなに影を作って
秋には秋には
衣装替え
おしゃれになります。
緑から黄色 黄色から赤
グラデーションで途中は色が混ざっていたり。
すっかり色変わりが終わったら
吹く風にのって踊りながら散るのです。
くるくるくるくる。
それが一番の見せ場。
もうすぐそんな秋がきます。
「秋🍁」
ガタタン…
ガタタン…
「あんたのとこはどうなの?
やってるんでしょ?
合鴨農法。」
「あー…
農薬はなあ撒かんでいいんだけどもなあ…」
「なに?」
「餌代がかかるからなあ…」
「田んぼの虫とか食べるんじゃないん?」
「それだけじゃあなくて…」
「へー…」
「肉は売れるんじゃがなあ…」
「鴨の?
あっ、売れるんだ!」
「きつねがなあ…」
「きつね!?」
「きつねが鴨を獲りにきよるからなあ…」
「!!?」
「電気柵で囲ったんよ。
それが高くついてなあ…
狐は高く跳ぶから…」
通路を挟んだ席に座る、気弱そうなおじさんと、そのおじさんと同じようなお年頃の快活なご婦人二人との会話に耳をそばだてるわたしを乗せて、電車は海沿いを走り続ける。
文明を遠ざけたら生態系が戻ってくるのかあ…
農家さんの大変な話なんだけど昔話を聞いてるみたいだなあ…
そう思いながら窓の外を見ていると、海の岩場で干し台をして、ワカメか何か、海藻を干しているおじさんを見つける。
遠くてはっきりはわからないけど、目があった気がした。
とたんにこんがり日焼けしたおじさんは、ワカメを干す手を止めて、大きく手を振った。
一瞬戸惑ったが、自分に振ってる気がしたので、こちらも手を振る。
わたしが振るとおじさんもうれしそうで、より元気に手を振る。
おじさんは電車が完全に通り過ぎるまで、手を振り続けていた。
なんだかうれしかった。
知らない人同士なのに、ちょっと仲よくなれたみたいで。
あのおじさんは電車が通る度に、目が合う人にああやっているのか、それともわたしを知ってる誰かと間違えていたり?
それとももしかするとわたしの席の側に他に手を振っている人がいたり?
電車はガラガラだからたぶんわたしだとは思うんだけど…
とある田舎の電車の中と外。
あの電車にはしばらく乗っていないけど
堅実に生きてる人たちの美しさよ。
みんなずっと元気でいてほしい。
「窓から見える景色」
『起きて。朝ですよ。』
『はい。ご飯。できましたよ。』
『ここ、髪、はねてますよ。』
『晩ごはん、なにか食べたいものあります?』
『今日は帰るのどれくらいになります?』
『いってらっしゃい。気をつけて。』
わたしの目の前で動き続ける、思い出の残像。
「形の無いもの」
水色のジャングルジムのてっぺんから逆さまにぶら下がる。
男の子がやっててやりたかったんだよね。
水色の格子の向こうに金色の夕日。
空と地面が逆さになって
きれいだし、重力から自由になった気がして
バンザイして
気分よくなって
なんだか足もまっすぐにしてもいいような気がしてきちゃって…
おっきなたんこぶできた。
「ジャングルジム」
高熱がずっと続いている…
混沌とした意識を彷徨いながら酸素マスクを曇らせる。
夜明け前までもたないだろう…
命が燃え尽きるまでもう時間がないのを感じる。
君からのLINEは来ているのだろうか…
確かめることさえできない…
そんなことが頭をよぎる。
カーテンの間から見える星空が泣く。
違う。
わたしの目に涙が溜まって歪んで見えてるだけ。
ああ、なんか明るい…
花畑が見える…
白とピンクのコスモス?
今の季節らしい…
きれいだなあ…
花畑を進んでいくといつの間にか夜景になっている。
花もチョコレートコスモスと青いダリア…
風が吹いたのか、ぶわっと花びらが舞い上がった。
花吹雪の向こうに、川と小さな船着き場と木のボートが見えた。
時間よ止まれ
まだ大事にしたいものがあるんだ。
そう思うのにわたしの足は裸足で赤と青の花を踏み散らして歩き、船着き場に向かうのを止めない。
秋に恋がれていた。
まだ秋らしい秋を迎えていない。
涼しくなったらこの熱も下がって体が楽になるかもと…
声が聞こえる…
誰の声かもわからない。
あの人かもしれない…
でもわたしの足は進むのを止めない…
90作突破記念
「声が聞こえる」
7/15 20作 7/27 30作 8/4 40作 8/14 50作
8/23 60作 9/3 70作 9/13 80作
突破記念の続き。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
インターバル的なもの。