ガタタン…
ガタタン…
「あんたのとこはどうなの?
やってるんでしょ?
合鴨農法。」
「あー…
農薬はなあ撒かんでいいんだけどもなあ…」
「なに?」
「餌代がかかるからなあ…」
「田んぼの虫とか食べるんじゃないん?」
「それだけじゃあなくて…」
「へー…」
「肉は売れるんじゃがなあ…」
「鴨の?
あっ、売れるんだ!」
「きつねがなあ…」
「きつね!?」
「きつねが鴨を獲りにきよるからなあ…」
「!!?」
「電気柵で囲ったんよ。
それが高くついてなあ…
狐は高く跳ぶから…」
通路を挟んだ席に座る、気弱そうなおじさんと、そのおじさんと同じようなお年頃の快活なご婦人二人との会話に耳をそばだてるわたしを乗せて、電車は海沿いを走り続ける。
文明を遠ざけたら生態系が戻ってくるのかあ…
農家さんの大変な話なんだけど昔話を聞いてるみたいだなあ…
そう思いながら窓の外を見ていると、海の岩場で干し台をして、ワカメか何か、海藻を干しているおじさんを見つける。
遠くてはっきりはわからないけど、目があった気がした。
とたんにこんがり日焼けしたおじさんは、ワカメを干す手を止めて、大きく手を振った。
一瞬戸惑ったが、自分に振ってる気がしたので、こちらも手を振る。
わたしが振るとおじさんもうれしそうで、より元気に手を振る。
おじさんは電車が完全に通り過ぎるまで、手を振り続けていた。
なんだかうれしかった。
知らない人同士なのに、ちょっと仲よくなれたみたいで。
あのおじさんは電車が通る度に、目が合う人にああやっているのか、それともわたしを知ってる誰かと間違えていたり?
それとももしかするとわたしの席の側に他に手を振っている人がいたり?
電車はガラガラだからたぶんわたしだとは思うんだけど…
とある田舎の電車の中と外。
あの電車にはしばらく乗っていないけど
堅実に生きてる人たちの美しさよ。
みんなずっと元気でいてほしい。
「窓から見える景色」
9/25/2024, 11:46:40 PM