雨になるとあいつが立っている。
学校帰り、児童玄関の前、あいつが立っている。
赤い魚。
むなびれで黒い傘を持って、脛まで分かれた足の
先はスニーカーを履いて。
ぼくを待っている。
みんながそいつの横を通り過ぎていく。
だけどぼくが歩き出すと後をついてくる。
なにをするでもないが、ついてくる。
こんなの完全に不審者ってやつだと思うから、
ほんとは人に話したり、助けを呼んだりしたい。
だけどしってる。
こいつはぼくにしか見えてない。
家まで着くと、敷地には入らずぴたりと止まる。
そしてぼくが家に入って行くのをじいっと見てる。
しばらくして見に行くと消えている。
夏の間だけ。雨が降ったら必ずというわけでもない。
僕は大人になった。
今日は雨。
窓の外、会社の前の道に目をやる。
「また来てるな…。」
「雨に佇む」
ひなたくんは まいにち わたしのことを日記帳にかいているの。
いわば ひなたくんの日記帳はわたしの日記帳ね。
ひなたくんは毎朝「おはよう。」って言ってくれるの。
それでわたしがげんきか気づかってくれるわ。
時々 「すごーい。」とか「きれいだねー。」とか わたしを見て言ってくれるわ。
そしてよくわたしのことを絵にかいたりするのよ。
ひなたくんはいつもわたしをじーっと見つめてくるからてれてしまうの。
そしてこのまえおしえてくれたわ。
わたしの名前 「あさがお」っていうんですって。
きょうもあの子がやってくるわ。
「おはよう。」
「私の日記帳」
一年前の春
僕たちは付き合いだした。
僕は緊張して落ち着かない感じで
きみはそんな僕を見てはにかみながら微笑んだ。
夏
僕たちはすっかり慣れてくだらない話をたくさんした。
たくさん笑ってた。
今年の春頃
きみが僕の話を時々聞いていなかったり、
窓の外を眺める事が増えた。
夏の終わり
きみが何か言おうとしてるのを分かってて、
僕はわざと下らない話をして言えないようにしてた。
それなのに、今日、きみはとうとう言ってしまった。
これからは、この向かいの席には誰も座らない。
今年の冬はきっと寒くなる。
「向かい合わせ」
7/16「空を見上げて心に浮かんだこと」
7/24「花咲いて」
───去年の夏
8/9「蝶よ花よ」
───今年の夏
オリゴ糖の入ったチョコ
1日5個が目安って書いてあったから、最低5個かと思ってもりもり食べた。
糖が吸収されないって書いてあったから、ならカロリーはほぼないってもんだろと思ったら成分表にちゃんと書かれてた。
そしてその横に1日5個以上は食べるなって書いてあった。
……………。
そしてお腹が痛くなった…
「やるせない気持ち」
自転車に乗って
夜の海に行く。
俺の誇らしさをずっと奪い続けてきたものを捨てに。
捨ててやりたかったのに、いつまでも捨てられずにいたもの。
それは鏡。
銀色の金属がレースのように縁取られ、長細くカットされたガラスの石が散りばめられている。
ラジコンカーが欲しいと言った年、母が俺にくれたもの。
「女の子はね。みんなお姫様なの。
あなたもこの鏡を見ながら、きれいなきれいなお姫様になるのよ。」
鏡の前でセミロングに伸ばされた髪をときながら、母は俺にこの呪いをかけ続けた。
その髪は今はショート。半年前に勝手に切ってやった。
怪しい空模様。
台風が近づいているのだ。
俺は鏡を海の遠くに投げ捨てて、
波の音に紛らわせ
「わ─────!!!」
と叫んだ。
波は鏡と俺の声を呑み込んだ。
何度も何度も叫んだ。
鏡にさよならを言う前に、
俺は荒れる海から吹く風を受け止めるように、両手を広げた。
俺は今、鳥のように自由だ!
裏返しに不安がやってくる。
やはり少し怖いのだ。
母に見限られてしまうのが。
それでも俺は間違っちゃいない。
この気持ちを強く、握りしめて俺は立つ。
60作突破記念
「海へ」
7/15 20作 7/27 30作 8/4 40作 8/14 50作
突破記念の続き。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
◯作突破記念とか言っているがあくまで目安でけっこうてきとうに発動。
反応に関係なく自分が楽しいのでやってる企画。
インターバル的なもの。