sunao

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自転車に乗って
夜の海に行く。

俺の誇らしさをずっと奪い続けてきたものを捨てに。

捨ててやりたかったのに、いつまでも捨てられずにいたもの。

それは鏡。

銀色の金属がレースのように縁取られ、長細くカットされたガラスの石が散りばめられている。

ラジコンカーが欲しいと言った年、母が俺にくれたもの。

「女の子はね。みんなお姫様なの。
 あなたもこの鏡を見ながら、きれいなきれいなお姫様になるのよ。」

鏡の前でセミロングに伸ばされた髪をときながら、母は俺にこの呪いをかけ続けた。

その髪は今はショート。半年前に勝手に切ってやった。

怪しい空模様。
台風が近づいているのだ。

俺は鏡を海の遠くに投げ捨てて、
波の音に紛らわせ

「わ─────!!!」
と叫んだ。

波は鏡と俺の声を呑み込んだ。
何度も何度も叫んだ。

鏡にさよならを言う前に、
俺は荒れる海から吹く風を受け止めるように、両手を広げた。

俺は今、鳥のように自由だ!

裏返しに不安がやってくる。
やはり少し怖いのだ。
母に見限られてしまうのが。

それでも俺は間違っちゃいない。
この気持ちを強く、握りしめて俺は立つ。




60作突破記念
「海へ」

7/15 20作 7/27 30作 8/4 40作 8/14 50作
突破記念の続き。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
◯作突破記念とか言っているがあくまで目安でけっこうてきとうに発動。
反応に関係なく自分が楽しいのでやってる企画。
インターバル的なもの。

8/23/2024, 2:25:59 PM