sunao

Open App
8/3/2024, 12:28:16 AM

ある病室の午前0時すぎ


♪……ピーロッポッポピーロロピロリロ…

調子の外れた横笛の音と共に、10年前に亡くなった奥さんを先頭に、権三さんと親しかった人たちが、かぐや姫のお迎えのごとく、にこにこ、光に包まれながら、雲に乗ってやってきた。

『迎えにきたよ〜。』

しんみりしたのは嫌い。とずっと言っていた権三さん。
「ああ、みんな…
 きてくれたのか。」
『そうだぜ。どうだい、派手だろ?』
「ああ、うれしいよ…。」
『この部屋は、お前とあのじいさんの2人きりかい?なんならあいつも連れて行くかい?』
「はっはっは。
 あいつは定吉。ここにいる間仲良くしてもらってたんだ。
 まあ、憎まれっ子世に憚るだから、あいつは長生きするよ。」
『そうか。そうか。
 じょーだんだ。
 さあ、いこう。』

♪ピーロッポッポピーロロピロリロ………


「………………
 
 うるさあぁぁぁぁぁい!!!」

権三達が去った後に定吉は飛び起きた。
彼は実は最初の笛の音から起きていた。
うるさかったし、明るかったからだ。

「なんでい。こんちくしょう……。」
定吉の洟を啜る音が部屋に響いた。


その3日後の深夜、定吉だけになったあの病室から、また、笛の音が聞こえてきた。



「病室」

8/2/2024, 12:16:53 AM

明日、もし、晴れたら

海に行こうか!
プールバッグ持って、電車に乗って。
電車のおともにプリッツとブルーベリーガム持って。

日差しを反射するキラキラのあの無人駅に着いたら、
風が吹いてね
すぐ、海が見えるよ。
真っ青な海と空。
ひまわりもきっと咲いてるね。

ね、海、行こっか。



「明日、もし晴れたら」

7/31/2024, 8:39:01 PM

深い深い海の底で、めんだこは、海の泡がひとつ、またひとつと、浮き上がっていくのを見ていた。

そこにおしゃべりなクリオネがやってきた。

「やっほー、めんだこさん、ちょうしはどーお?」

「…………」

「あのさあ、ぼくさ、すごいことできるんだよ。
 みたい?ねえ、みたい?みたいよね?」

「…………」

「じゃあ、やるからね、みててね。」

「…………」

「バッカルコーーーン!!!」

「………………」

「………………」

クリオネさんはなんだか気まずそうになって、
「じゃあ、またね。」
と、どこかに行った。

ああいう時、どういう反応をしたらいいのかわからない………

だから、一人でいたいんだよなあ…………。

めんだこはまた泡が上がるのを見ながら、小さなため息をついた。



「だから、一人でいたい。」

7/30/2024, 6:03:19 PM

ラムネのビー玉をかざす。

地球がぐるっと映る。

空とか、海とか、草木とか、あらゆる生き物とか

そんな風にわたしの目も地球を取り込んでいるだろう。

あなたからこのほしはどう見えていますか?

あなたの水晶体を貸してください。

言葉がきっとそれになるから。



「澄んだ瞳」

7/29/2024, 11:50:52 PM

タンッ、タタンッ

踊り続ける。

たとえ嵐が来ようとも。

なぜなら嵐を呼んでいるのは俺だから。

穀物に実りを。
熱く渇いた大地を潤せ。

足首に数珠のようなものを着けて、男が激しく踊り続けている。


人は彼を雷様と言うらしい。





「嵐が来ようとも」

Next