ある病室の午前0時すぎ
♪……ピーロッポッポピーロロピロリロ…
調子の外れた横笛の音と共に、10年前に亡くなった奥さんを先頭に、権三さんと親しかった人たちが、かぐや姫のお迎えのごとく、にこにこ、光に包まれながら、雲に乗ってやってきた。
『迎えにきたよ〜。』
しんみりしたのは嫌い。とずっと言っていた権三さん。
「ああ、みんな…
きてくれたのか。」
『そうだぜ。どうだい、派手だろ?』
「ああ、うれしいよ…。」
『この部屋は、お前とあのじいさんの2人きりかい?なんならあいつも連れて行くかい?』
「はっはっは。
あいつは定吉。ここにいる間仲良くしてもらってたんだ。
まあ、憎まれっ子世に憚るだから、あいつは長生きするよ。」
『そうか。そうか。
じょーだんだ。
さあ、いこう。』
♪ピーロッポッポピーロロピロリロ………
「………………
うるさあぁぁぁぁぁい!!!」
権三達が去った後に定吉は飛び起きた。
彼は実は最初の笛の音から起きていた。
うるさかったし、明るかったからだ。
「なんでい。こんちくしょう……。」
定吉の洟を啜る音が部屋に響いた。
その3日後の深夜、定吉だけになったあの病室から、また、笛の音が聞こえてきた。
「病室」
明日、もし、晴れたら
海に行こうか!
プールバッグ持って、電車に乗って。
電車のおともにプリッツとブルーベリーガム持って。
日差しを反射するキラキラのあの無人駅に着いたら、
風が吹いてね
すぐ、海が見えるよ。
真っ青な海と空。
ひまわりもきっと咲いてるね。
ね、海、行こっか。
「明日、もし晴れたら」
深い深い海の底で、めんだこは、海の泡がひとつ、またひとつと、浮き上がっていくのを見ていた。
そこにおしゃべりなクリオネがやってきた。
「やっほー、めんだこさん、ちょうしはどーお?」
「…………」
「あのさあ、ぼくさ、すごいことできるんだよ。
みたい?ねえ、みたい?みたいよね?」
「…………」
「じゃあ、やるからね、みててね。」
「…………」
「バッカルコーーーン!!!」
「………………」
「………………」
クリオネさんはなんだか気まずそうになって、
「じゃあ、またね。」
と、どこかに行った。
ああいう時、どういう反応をしたらいいのかわからない………
だから、一人でいたいんだよなあ…………。
めんだこはまた泡が上がるのを見ながら、小さなため息をついた。
「だから、一人でいたい。」
ラムネのビー玉をかざす。
地球がぐるっと映る。
空とか、海とか、草木とか、あらゆる生き物とか
そんな風にわたしの目も地球を取り込んでいるだろう。
あなたからこのほしはどう見えていますか?
あなたの水晶体を貸してください。
言葉がきっとそれになるから。
「澄んだ瞳」
タンッ、タタンッ
踊り続ける。
たとえ嵐が来ようとも。
なぜなら嵐を呼んでいるのは俺だから。
穀物に実りを。
熱く渇いた大地を潤せ。
足首に数珠のようなものを着けて、男が激しく踊り続けている。
人は彼を雷様と言うらしい。
「嵐が来ようとも」