「じゃあ恋人同士にならなくていいの?ほんとに?」
「ええほんとに。」
「そうなんだ…。」
好きな人がいたらその人とどうこうなりたいっていうのが恋愛じゃないの?知らないけど。
「だからこれは恋なの。永遠の恋。」
うーん本当か?いやこの子はこんな嘘はつかない。知らないけど。
「じゃ、じゃあさ。もしそのおじ…あ、その、彼がさ。あなたのことを好きだって言ったらどうする?」
「え、それはありえません。あるはずが無いの。」
「…たとえばだよ。たとえば。」
この子かわいいからありえる話なんだよな。さあどうする?
「…そうなれば、この恋は終わり。さよなら。」
「愛に変わる?」
「変わらない。」
きっぱりか。なるほどこれは世間一般からしたら愛ではなく恋というかむしろ変なんだろうな。知らないけど。
「じゃああなた以外の好きな人がいたら?」
「それはいいよ。」
「…いいんだ。」
「愛は不自由だけれど恋は自由だもの。」
なるほどよくわからない。難しいね恋愛って。
まあまあとりあえずこの恋物語が早々に完結しないことを願おう。なんかおもしろそうだから。
恋物語
ふと目が覚めてその痛みに気付く。
(腰痛い…)
あお向けから横を向いて楽な姿勢をとった。うう…と体からの悲鳴が聞こえる。
せまいベッドの中で動いたからとなりのこの人を起こしてしまったかもしれない。
「…ごめん。」
反応なし。寝ているようで安心した。
それはよかったのだがまだ外は真っ暗。起きる時間ではない。
(どうしよう…寝れない。)
起き上がれば起こしてしまうかもしれない。
でも睡魔はどこかへ行ってしまった。
「ううぅ…。」
その無防備な左腕にしがみついて顔をうずめた。
いいにおい。洗剤と柔軟剤とこの人のにおいが混じり合って落ち着くにおいになっている。
顔も頭もほにゃほにゃに溶けていくのがわかった。
寝巻きのパーカーもやわらかくて肌触りばつぐん。
そのへんで買った割安品だが高級ルームウェアに負けていないだろう。
これに頬ずりすると声にならない声が出てしまう。
「へへ…。」
(かわいいな…。)
頑張った昼。夜のごほうび。
ふたりでつくるひとりの時間。
真夜中
ねえ質問。
「できる。彼女のためなら何でも。」
「…たぶん。う、うん。きっと。」
「さあね。わからない。まあ死ぬくらいならできると思うけど。」
「ううむ、どうだろう。臆病だからな私は。」
「無理。痛いのとかつらいのはなんだって無理。」
「出来ますよ。愛が私を待っていてくれるのならば。」
「何でも…か。痛みやらそういうのは多少平気だが…。」
「やってみせる。そうでなきゃ生きる意味がない。」
「うーん。何でもは出来ないなあ。今は、ね。」
「はっ。愛ねえ。できるんじゃねえの?俺は知らん。」
「出来る…と信じたい。きれいごとでも、何でもいいから。」
ちなみに私はできると思います。テイクを求めない愛限定でね。
愛があれば何でもできる?
「受注期間終わってる…。」
まただ。またやってしまった。
知っていた。わかっていた。それなのに。
「この前も同じこと言ってなかった?」
「うぅ…。」
「このやりとりもつい最近したような気がするけど。」
「ううぅ…。」
そうだよ!最近というか3日前くらいにね!
「まあまあ。もしかしたら買った方が後悔していたかもしれんぞ。なかなか高額な品だからな。」
「うううぅ…。」
ああーそれ言っちゃうの?!そうだよ!
買って後悔したこともあるよ!何なら先月のことだよ!
「それも前やらかしてた。だから慰めにはならないよ。本当に馬鹿だな。」
どうせ馬鹿ですよー…。わかってるよ…。
「生きていれば後悔のひとつやふたつやみっつあるさ。後悔しないハイパーポジティブ人間もいるが私は好かないな。いやあ本当に嫌いな人種だ。」
「まあね。僕も苦手だ。」
「はは。そういえば君、私を選んだことは後悔していないのか?」
「ちっとも。むしろあんたをものに出来なかった方が後悔したね。あんたこそ僕の言いなりでいいの?」
「もちろんだ。とても心地良いよ。」
「へー。うれしい。好きだよ。」
「ああ私もだ。愛しているさ。」
おーい。私のこと忘れてるだろ。
はあ。なんかもう買い逃しのことどうでもよくなった。
それはいいけど。
ヒトの目の前でいちゃいちゃすんなよ。
あーあーもう。
今日ここに来なきゃよかった。
後悔
「出掛けるぞ。」
少し遅めの朝食を食べ終わるなりこんなことを言われたものだから思わず「俺も?」と答えてしまった。
「当たり前だろ。さっさと支度しろ。」
何から目線だ全く。まあ天気も良いし特別用事も無いから素直に乗ることにした。
こいつは普段自分の身なりや部屋の散らかりようにはてんで無関心なくせに自分の愛車は常にきれいにしている。今日も太陽の光を反射して輝いていて少し気持ちが上がった。
「どこ行くんだよ。」
「あー。さあな。決めてねえ。」
「はあ。てっきり目的があるのかと思っていた。」
「いいじゃねえか別に。行く先は風まかせってな。」
よくわからないが上機嫌なこいつの顔を見るのは嫌いじゃない。だからまあノープランな一日も良いだろう。
「風まかせって、結局あんたの匙加減だろ。」
「はっ。不満か?」
「…いや。別に。」
「おとなしく俺に身を任せてりゃいい。嫌いじゃねえだろ。こういうの。」
そう言ってお留守になっていた俺の手に自身のそれをそっと乗せ優しく握った。
じわりと手の中で汗が滲む。妙な気分になってしまい話をそらした。
「…暑いな今日。エアコンつけろよ。」
「窓を開けておけ。走れば風が入る。」
虫が入るから嫌だが。今日はそれでいいか。
心地の良いこの風に身をまかせてもいい。
この風は、嫌いじゃないから。
風に身をまかせ