粉末

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「出掛けるぞ。」
少し遅めの朝食を食べ終わるなりこんなことを言われたものだから思わず「俺も?」と答えてしまった。
「当たり前だろ。さっさと支度しろ。」
何から目線だ全く。まあ天気も良いし特別用事も無いから素直に乗ることにした。

こいつは普段自分の身なりや部屋の散らかりようにはてんで無関心なくせに自分の愛車は常にきれいにしている。今日も太陽の光を反射して輝いていて少し気持ちが上がった。
「どこ行くんだよ。」
「あー。さあな。決めてねえ。」
「はあ。てっきり目的があるのかと思っていた。」
「いいじゃねえか別に。行く先は風まかせってな。」
よくわからないが上機嫌なこいつの顔を見るのは嫌いじゃない。だからまあノープランな一日も良いだろう。

「風まかせって、結局あんたの匙加減だろ。」
「はっ。不満か?」
「…いや。別に。」
「おとなしく俺に身を任せてりゃいい。嫌いじゃねえだろ。こういうの。」
そう言ってお留守になっていた俺の手に自身のそれをそっと乗せ優しく握った。
じわりと手の中で汗が滲む。妙な気分になってしまい話をそらした。
「…暑いな今日。エアコンつけろよ。」
「窓を開けておけ。走れば風が入る。」
虫が入るから嫌だが。今日はそれでいいか。
心地の良いこの風に身をまかせてもいい。
この風は、嫌いじゃないから。


風に身をまかせ

5/15/2024, 9:41:07 AM