粉末

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4/20/2024, 4:41:10 AM

唐揚げが食いたい。

勤務中にふと気が付いた。
俺は今唐揚げが食いたい。
もう口が完全に唐揚げの口になってしまった。
帰りにスーパーにでも寄って買って行こうか
そう考えていたらあの人からメッセージが届いた。
「今日からあげだよ!早く帰っておいでー。」
まじか。未来予知かテレパシーか。
もともと不思議な空気を纏った人だがまさか。

足早に帰宅した自宅からは外まで美味そうなにおいが漂っていた。
「なああんた未来が見えるのか。」
「まさかぁ。だったらあんな失敗しないよ。」
ぐ、と言葉が詰まる。あんな、とはこの人のひどい過去の恋愛話だ。
本人はあはは、とあっけらかんに笑うが俺はいつも一緒になって笑うべきか迷う。
「未来が見えたら、かあ。ちょっと怖いけど楽しそうだね。宝くじなんか当て放題だよ。」
「まあそれは…人としてどうかと思うが。」
「真面目だねぇ。君の良いところだ。」
誰もが惚れてしまうであろう笑顔。キラースマイルというやつか。もし名の通りの効果があれば俺はとっくにあの世行きになっている。
出来たての唐揚げを口にしながらひとりそんなことを考えていた。
「未来か。私たちの子どもの顔も見れるかもね。」
…………は?
「あ、ビール持ってくるね。ごめん、忘れていたよ。」
…え、いや今…。
「はいお待たせ。今日暑いねえ。」
しっとりとした素肌にぱたぱたと手でわずかな風を送る仕草に妙な気分がそそられる。
「お疲れ様。はい、かんぱーい。」
「…かんぱーい。」
いつのまにか持たされたグラスの中の冷えたビール。
山盛りのあつあつの唐揚げ。
最高の金曜日のはずなのにもう何も考えられなくなった。
良い未来だろうが悪い未来だろうが
やっぱり未来なんぞ見れなくていい。
俺はこの人との今を生きることに精いっぱいだ。


もしも未来を見れるなら

4/19/2024, 6:44:54 AM

私の見る世界は基本色が無い。単なる比喩だが。
白黒映画のようと言えば聞こえは良い。
内容は気色の悪い笑顔と共におべっかや嫉妬、腹の探り合い、安い会話が只々くり返される駄作だ。
そんなものを見た日の夜はひとり部屋で煙草をくゆらせ現実を煙の向こうに追いやる。
くそったれ共の顔も幾分かマシになるからな。

日の光と肌寒さに叩き起こされた朝。
開ききらない眼の奥で見た
煙草の煙の向こうにいる彼には確かに色があった。
「おはよ。」
「おはよう。…君、そんな顔をしていたのか。」
「うん?そうだけど。」
「そうか。男前だな。」
「今気付いたの。」
ああ。今やっと気付いたよ。君の髪、眼、肌の色。
日の光と煙の白から浮き上がってくっきりと見えた。
「それは私のだろ。そんなに吸いたいなら煙草ぐらい自分で買いたまえよ。」
「別に無くったって死なないから。これは格好つけ。
前にさ、煙草を吸う姿が俳優みたいで良いって言われたんだ。」
「はは。まあそれは否定しない。だが何のために。」
彼はふーっと気だるげに煙を吐き、慣れた手付きで灰皿に灰を落としたあと私に近寄ってきた。私はその黒曜石のような眼に捕らえられ、そして
「そんなの、あんたに好かれたいからに決まってる。」
にっ、と煙草をくわえたままのいたずらな笑顔を向けられたのだ。

彼が離れればたちまち色を失い元に戻るであろう脆い世界。そうしたらまた君の手で乱暴に彩ってほしい。
煙草なんかより簡単に飛べそうだ。


無色の世界

4/18/2024, 5:33:21 AM

「今年もあっという間だな。」
「そうだね。」

いつの間にか咲いていつの間にか散っている。
暑さに耐え、寒さに耐え
やっとその時を迎えたのに
それはあまりに短すぎる。

「ちょっと寂しいけどまた咲くよ。だってこの子達は生きているからね。」

ふんわり。可愛くて儚げなこいつの笑顔は桜の花のようだ。そしてその芯は強く桜の木のようにしっかりと根を張っている。

「みんなお花見したのかなあ。」
「だろうな。俺は花見なんかしたことがない。」
「私もだよ。桜の下でお弁当広げて
お昼なのにビールなんか飲んで。いいなあ。」
「来年してみるか。花見。」
「うん。忘れないようにしなきゃ。」

俺たちが来年も共にいれる保証はどこにも無い。
けれどこうして未来の約束をする。来年もまた桜が咲くと信じて。

「来年もまた同じ会話をしそうだ。」
「ふふ。あり得るね。」


桜散る

4/17/2024, 5:05:06 AM

「子供のころの夢は何だった?」
めずらしい君からの過去の話題。
うーんと幼いころを思い出してみる。
ヒーロー、スポーツ選手、宇宙飛行士、パイロット…。
わりといろいろ出てくるな。まわりの影響でころころ変わっていただけだけど。
運動も勉強もぱっとしなくてそうそうに諦めた夢達。
何かになりたいと思わなくなったのはいつ頃からだったろう。
「君は?」
目を逸らして明らかにもじもじし出した君。かわいい。
「…お姫様とか。お花屋さんとか。ぬいぐるみ屋さんとか…。」
かわいい。かわいすぎる。女の子の夢としてはポピュラーなんだろうけど今の君が言うとギャップがあってとてつもなくかわいい。
そしてふと気になることが。
「…お嫁さんは?」
なんとなくね。なんとなく。
「それは一回も思ったことが無いな。」
即答。まあいいのさ。これからだ。これから。

夢を見る心は大切だ。余裕を持つという意味でも。
目標という意味でも。
何年かぶりに何かになりたいと思うようになった。


夢見る心

4/16/2024, 5:25:34 AM

「またそんな格好で外に出たの?!」
「…ゴミ出しに行っただけだ。」
距離の問題じゃない。何度も何度も言っているのに。
「…誰も見ていない。」
「そんなのわからないでしょ。」
そのうすーいインナーシャツが何を守ってくれるというのだ。体のラインをくっきりさせて君を更に魅力的に見せることしか出来ないだろ。
「そんな物好きいない。」
「俺だったら絶対見る。」
彼女はむう、と少しむくれてそのまま何も言わずに履いていた部屋着のスウェットパンツに手を掛けた。
「だから!窓際で着替えないで!見えちゃうよ!」
「…考えすぎ…。」
「なに?なんか言ったかい?」
「…別に。」

君はとても魅力的だということを
もっと自覚を持ってほしい。
嫉妬深い俺はいつもやきもきしているんだよ。
もう何年も一緒にいるのに
この思いは君にはあまり届いていないようだ。



届かぬ思い

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