粉末

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唐揚げが食いたい。

勤務中にふと気が付いた。
俺は今唐揚げが食いたい。
もう口が完全に唐揚げの口になってしまった。
帰りにスーパーにでも寄って買って行こうか
そう考えていたらあの人からメッセージが届いた。
「今日からあげだよ!早く帰っておいでー。」
まじか。未来予知かテレパシーか。
もともと不思議な空気を纏った人だがまさか。

足早に帰宅した自宅からは外まで美味そうなにおいが漂っていた。
「なああんた未来が見えるのか。」
「まさかぁ。だったらあんな失敗しないよ。」
ぐ、と言葉が詰まる。あんな、とはこの人のひどい過去の恋愛話だ。
本人はあはは、とあっけらかんに笑うが俺はいつも一緒になって笑うべきか迷う。
「未来が見えたら、かあ。ちょっと怖いけど楽しそうだね。宝くじなんか当て放題だよ。」
「まあそれは…人としてどうかと思うが。」
「真面目だねぇ。君の良いところだ。」
誰もが惚れてしまうであろう笑顔。キラースマイルというやつか。もし名の通りの効果があれば俺はとっくにあの世行きになっている。
出来たての唐揚げを口にしながらひとりそんなことを考えていた。
「未来か。私たちの子どもの顔も見れるかもね。」
…………は?
「あ、ビール持ってくるね。ごめん、忘れていたよ。」
…え、いや今…。
「はいお待たせ。今日暑いねえ。」
しっとりとした素肌にぱたぱたと手でわずかな風を送る仕草に妙な気分がそそられる。
「お疲れ様。はい、かんぱーい。」
「…かんぱーい。」
いつのまにか持たされたグラスの中の冷えたビール。
山盛りのあつあつの唐揚げ。
最高の金曜日のはずなのにもう何も考えられなくなった。
良い未来だろうが悪い未来だろうが
やっぱり未来なんぞ見れなくていい。
俺はこの人との今を生きることに精いっぱいだ。


もしも未来を見れるなら

4/20/2024, 4:41:10 AM