「よしよし。よくがんばったね。」
鈴蘭のように白く可憐な指先が慈しむ器には
たしかに命があった。
自分が眠っている間に空へ飛び立ったようだ。
長く厳しい旅を終えたその瞳は見えないが、
あたたかでやさしい大樹の様なこの人の手に包まれ
きっと安らかなのだろう。
いつか俺が死ぬ時は
鳥になってこの人のぬくもりに包まれていきたい。
死に場所も選ばせてくれないであろうこの魂にも
安らかな最期を用意してくれ。
なあ神様。お願いだから。
安らかな瞳
長距離バスでの小旅行。
帰りの車内で君がぽんやりとした声になったから
俺はもたれかかって寝て良いよと言った。
ごめん、とひとこと呟いてすぐに眠った君。
可愛い寝顔。他のやつに見せたくなかった。
俺は少しも眠たくなくて
ひざ掛け代わりにした上着の中で
こっそりと君の手を握った。
ひとつのベッドで眠るようになってからも
こうして眠る君の手を握ることがある。
なあお願いだよ。俺頑張るから。
これからもずっと
俺の隣でその寝顔を見せてくれ。
ずっと隣で
「ねえ。最近何読んでるの。」
「うん?これかい。刹那的に生きる少女達の友情物語さ。といってもギャグだがね。一部の描写が細かくてなかなか面白いよ。」
「…読み終わったら貸して欲しい。」
「ああいいとも。ぜひ感想を語り合おう。」
全て知りたい。この人の全てだ。
この目を見ても心の内を見透かすことは出来ない。
この人の読む本を読めば理解出来るだろうか。
僕の知らないこの人が存在するなんて耐えられない。
教えろ。隠すな。僕に見せろ。
僕はさあただあんたのことを
もっと知りたい
「おはよ。パンあるよ。ジュースも。」
「おはよう。来ていたのか。」
ひとりで迎える遅めの静かないつもの朝。
そんな日常が少し狂い始めたのはいつからだったか。
「パンのお礼にコーヒーはいかがかね。」
「カフェオレなら飲む。ミルクたっぷりでね。」
「承知したよ。少し待っていなさい。」
いつのまにかこんなやりとりが日常になってしまった。
「最近SNSを更新していないが忙しいのかい。」
「うーん。そうじゃないけど。」
「うむ。けど?」
「…なんかもういいかなって。こうやってあなたと話してる方が楽しいし。」
「そりゃ嬉しいな。私もだ。」
「そっか。やったね。」
「ふふ。さあどうぞ。特別なカフェオレだ。」
「ありがと。いただきます。」
「こちらこそ。いただきます。」
特別なことは特に無い。
なに、刺激を求めることだけが人生じゃないさ。
特別じゃない特別な日よ
なるべく長く続いておくれ。
平穏な日常
ラブアンドピース。
テレビを点けていたらやっていたので
なんとなしに見ていたヒーロードラマ。
君と2人してはまって最後まで見続けたっけ。
最終回近くは毎週泣いていた。
世界中の愛と平和は守れないけど
君を愛して君の平和を守る
君のヒーローに
俺はなれているだろうか。
君の笑顔が俺にとって何よりの世界平和なんだ。
愛と平和