「ただいま!」
誰もいない家の玄関の重いドアを開けると、ほのかに甘い香りが私を呼んでいる。
「あっ!おやつ!」
ランドセルを玄関先に置き、急いで靴を脱ぐ。すぐ目の前にあるキッチンのテーブルには、白い丸いお皿がある。そこには私の大好きなおやつが山盛りに積み上がっていた。
側にはいつものように、白い紙に『しーちゃんのおやつだよ。たくさんたべなさい。』とお手本のような綺麗な字で書かれている。おじいちゃんがどんな顔をしながら書いたのかな?とか考えると嬉しくなって、私の顔も自然と笑顔になった。
「今日は、くるくるおやつだ!手で食べられる!」
ふふっと笑い声も出て、スキップをしながら手を洗いに行く。
おやつはその日によって違ったけど、全部おじいちゃんの手作りだった。ホットケーキの粉は使ってないの、一緒に作るお手伝いをしたことがあるから知ってるよ。でも、もっとおじいちゃんが凄いのは、同じ材料で同じ生地だけどすごーく大きなケーキを作ってしまうこと。
膨らまし粉を入れて、オーブンで焼いた茶色のケーキはバターの味がして、中はふわふわで、外はカリッとしてとっても美味しいの。
今日のおやつはフライパンで、まん丸に少しだけ焼いて、くるくるとロールにするんだ!
材料も知っているよ、トースターで溶かしたバター、砂糖、卵、牛乳、小麦粉、これだけ。
たったこれだけで、こんなに美味しいおやつを作るおじいちゃんは天才!おやつだけではなくて、料理も茶碗蒸し、シチューなんでも美味しく作るの!
おじいちゃんは、あんまりニコニコしないけど優しくて、お勉強も教えてくれて、物識りで何でも知っていて、自慢で大好き。
なんで父娘なのに、お母さんとおじいちゃんはケンカしちゃうのかな……だから、同じおウチのなのにお庭に家を建てちゃったのかな?
大好きな2人が仲良くなりますよーに!
お願いをしながら、今日もほっぺが落ちそうなおやつをパクリと食べた。
『私の当たり前』
風が、煙草の煙を攫っていく。それをぼんやりと眺めながら、煙草を燻らせる。
眼下に拡がる見慣れた景色は、今日も漆黒から抗おうと煌めきを放つ。
無意識的な恐怖から逃れる為に、必然的に人間達は行なっているのだろうな。
どれだけ文明が発達しても所詮、人間は脆い。心も、身体も。
この明かりの数だけ人間がいて、そして私を楽しませてくれるということ。
ただそれだけ、私には関係がない。
「さて、今宵も私と遊んでいただきましょう」
今日の獲物に期待が膨らむのを抑えきれずに、笑みが溢れる。
「みーつけた」
『街の明かり』
白磁のような艶々した欄干に寄り掛かりながら、さらりと音がしそうな絹糸のような美しい黒髪を掻き上げながらスマホを触りつづけている女性がいた。可愛らしいピンクのトップス、白いタイトなミニスカートは白く美しい肌に映え、綺麗な身体のラインがわかる。
反対側からのんびりと歩きながら、近づいてきた男性がいた。古代中国の民族衣装に似ているがどことなく違い、素材が軽やかで黒く艷やかであった。
短髪の黒髪に浅黒く日焼けした肌、整った顔立ちの青年は悪びれた様子もなく、笑顔で手をひらひらと振っている。
「ごめん待った?遅くなっちゃった」
「はぁ?キメ顔でキモい写真アップしている暇があればさっさと来なさいよ!」
男性の顔面に、スマホに映し出された画像を見せつけた。画像には今も着ている服を何故か半分だけ脱ぎ、筋肉を見せ付けるようなポージングされたもの。『今日は久し振りの牛飼いお出掛けコーデ』と、添えられた文章もある。
「やだなぁ、ただの需要と供給だよ。ほら、コメントでもみんなが喜んでいる」
「こんな勘違い野郎が私の夫だなんて、絶対に知られたくない」
楽しそうに語る夫を睨みつけながら、そう妻は冷たく突き放す。
そんな言葉も大して気にしていない様子の夫は、妻を可笑しそうに見ている。
「織姫、随分と自分のこと棚に上げてない?インフルエンサー気取りで、服まで作ってデザイナーにでもなったつもりかもしれないけど。天帝に見つかったらどうするつもりだい?」
見る間に顔面が蒼白になっていく織姫、それを楽しそうに満足気に彦星はしてやったりと笑顔で見つめている。
怠けすぎて怒られた織姫と彦星なら、現代に感化されすぎて謳歌していそうだなぁ。
そう妄想しながら、そうめんを啜る。
どうやら七夕に食べるらしい、初めて知った。
『七夕』
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毎日投稿を密かな目標にしていたけど、複数の可愛い?推し達に翻弄されているうちに19時が過ぎ去っていた。いや…お題を書くこと自体(笑)そう何も書いてなかったです…。見事に綺麗さっぱり忘れてました。
七夕に食べると今日、友達から教わりました!そして食べてないです(笑)
私の地域は今日は雨が降った七夕になりましたが、織姫の嬉し涙という諸説もあるそうなので、きっと久し振りに会えて喜んでいるでしょう。
ちなみにウチの織姫は韓国ファッションに感化されています(笑)時代的にロン毛のはずの彦星は、フォロワーに短髪が見たい!で切りました。
ふわりふわりと霞のような雲が漂っている、そっと手を伸ばせば届いてしまいそうだ。
月明りのせいだろうか、漆黒に塗り潰されているはずの空はグラデーションのように少しずつ趣が違う。
海の地平線を見つめていると地球は丸いことを実感するが、いま私が見上げているこの空も半円球であるということがわかる。きっと都会では知ることはなかっただろう、この景色。
空は落ちてくるのではないかと思うほど近くにあり、どこまでも果てしなく、そして数多に輝く光の粒達は、綺羅びやかに瞬いている。
この光達はいつから地球を見守っているのだろうか?
遥か先人達も見た星はあるのだろうか?
たしか金星あたりなら……
そんなどうでも良いことを、つらつらと考えながら、また歩き出す。
辺りから、芳しくも美味しそうな献立が浮かぶ香りが漂ってい来る。
幸せな日常を噛み締めながら、家路へ向かう足取りは自然と軽くなっていく。
『 星空 』
「さて皆さん、今回の課題は保護者の方々にも御覧になって頂きます。今まで習ってきたことの総復習となります、皆さんの日頃の成果が問われますので頑張ってくださいね。」
凛とした女性教師の声が、室内に響き渡る。スラリとした体躯の美しすぎる容姿、身に纏う薄い白い衣は不思議な煌めきを発していた。
部屋には女性と同じ様な衣を身に着けた少年少女達が10人ほど椅子に座り、自分の机の上に乗せられた透明な四角い箱の中にある浮遊する物体を真剣に観察している。その物体の形は様々な形をしていたが、基本的には球体、丸い円盤、四角い平面等が多く見られた。
「先生、質問を宜しいでしょうか?」
挙手をした困り顔の少年の側へ、先生と呼ばれた女性はスッと音もなく移動をする。
「あらあら、この状態を繰り返しているのかしら?」
優しそうな微笑みを浮かべながら、生徒の箱の中の物体を冷静に凝視していた。
「はい。気圧、地殻の気候調整も適宜行いました。しかしどうしても汚染と衝突をおこなってしまいます。こうなると現状維持は難しいのでしょうか?」
生徒は箱の物体を覗き込みながら、溜息混じりに言葉を発した。
「人口調整機能により、ある程度の維持力はありますが、保っても1000年は難しいでしょうね。どうしますか?一度練り直ししましょうか?」
「はい。父上に完璧に仕上げたものを見せたいので」
安堵したのか嬉しそうに先生を見上げた少年は、満面の笑みを浮かべていた。
微笑み合う2人の姿は、この世とは思えない神々しい輝きを感じる程である……
『 神様だけが知っている 』