「さて皆さん、今回の課題は保護者の方々にも御覧になって頂きます。今まで習ってきたことの総復習となります、皆さんの日頃の成果が問われますので頑張ってくださいね。」
凛とした女性教師の声が、室内に響き渡る。スラリとした体躯の美しすぎる容姿、身に纏う薄い白い衣は不思議な煌めきを発していた。
部屋には女性と同じ様な衣を身に着けた少年少女達が10人ほど椅子に座り、自分の机の上に乗せられた透明な四角い箱の中にある浮遊する物体を真剣に観察している。その物体の形は様々な形をしていたが、基本的には球体、丸い円盤、四角い平面等が多く見られた。
「先生、質問を宜しいでしょうか?」
挙手をした困り顔の少年の側へ、先生と呼ばれた女性はスッと音もなく移動をする。
「あらあら、この状態を繰り返しているのかしら?」
優しそうな微笑みを浮かべながら、生徒の箱の中の物体を冷静に凝視していた。
「はい。気圧、地殻の気候調整も適宜行いました。しかしどうしても汚染と衝突をおこなってしまいます。こうなると現状維持は難しいのでしょうか?」
生徒は箱の物体を覗き込みながら、溜息混じりに言葉を発した。
「人口調整機能により、ある程度の維持力はありますが、保っても1000年は難しいでしょうね。どうしますか?一度練り直ししましょうか?」
「はい。父上に完璧に仕上げたものを見せたいので」
安堵したのか嬉しそうに先生を見上げた少年は、満面の笑みを浮かべていた。
微笑み合う2人の姿は、この世とは思えない神々しい輝きを感じる程である……
『 神様だけが知っている 』
何度も立ち止まり、歩くのがままならなくなるほど、当たり前に出来ていた息の吸い方も吐き出し方も分からなくなり、途方に暮れて地べたに突っ伏してしまったこともあった。
これしか無いと自分に言い聞かせているだけなのかもしれない、何度もそう思っている。
微かに見えた……そう錯覚なのかもしれない。でも、指先に触れたかもしれない温かな光は、僕が求めていたものだと信じている。
あの頃のように、過去に縛られていないと思っていた。でも時折、気紛れにふらっと覗かせてくるアイツ。そんな自分に心底嫌気がさす、でもそれを含めて僕なんだと飲み下す。
もう下を向かない、あの光が見えたところだけを見続けよう。
少しづつ、ゆっくりでいい、あの光が僕の手の中に掴めるときまで、歩き続けよう。
いまはまだ何も掴めていないけど、何か掴めそうな気がしている。
僕だけの力では、あの光のもとへ辿り着けないけど。
あの頃はよくわからなかったことも、いまは少しわかるようになったよ。
いまもわからないことが多いけど……
凸凹だらけの歪な自分、でも僕は僕以外のモノにはなれない。いや、なりたくない。
瞳を閉じるその時までは、足掻き続けよう。
たとえ光に届くことなく、僕という存在がいま消えても。
後悔は1ミリもしない、目を開き続けてやる。
そう、それが僕だ。
『 この道の先に』
ただ静寂が辺りを包み込み、悠久の時が流れている、全ての時が止まっているのではないかと思わず錯覚してしまう。
かさりかさりと足元に微かに揺れる青葉を踏みしめながら、歩を進める。
とても不思議であった。風はない、ひんやりとした外気が肌を撫で上げていく、そしてどこかピリリッとした独特な空気感。
高い木々が立ち並び、腕を大きく広げた深緑たちが、程良い光を遮りながらも、キラキラと光落ちてくる木洩れ日はとても幻想的ですらあった。
別世界だ……美しい……
ふと視線を足元に落とす、謎の黒いかなり大きな固まり、石のような、どことなく鉄素材のような謎の物質が点在していた。
なんだろう?
少し赤っぽい、錆のような?でもつるつるしている。
初めて見る物質に目を奪われ、暫し観察をしてみたがよく解らず、先へと進む。
橋代わりのような平たい物体の上を歩き、先に見えてきたのは更に大きな大きな岩のような塊。先程と同じ物質ではあるが凸凹としていて、空気穴まである。少し触ると痛そうなザラつきがありそうだ。
不思議なことに、岩のような固い物体から植物が生えている。
へぇ……どうなっているんだろう?
程なくすると、辺り一面に光が溢れ返る。そこは行き止まりで崖になっていた。
しかし私を迎えたのは、眼前に拡がるのは美しい湖。
ゆらりゆらりと揺れる水面は、きらきらと光を弾き返す。
その姿をただ私は失われないように、スケッチブックへと描き写していく。
時が経つのを忘れて描き続けたあとの帰り道、悠久の森を歩いているとき嫌な予感がした。
もしかして……ここって……
樹海?……あの黒いの溶岩?
何故かこの私の身を包む寒さが、さらに一気に増した……
『 日差し 』
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これはノンフィクションです(笑)
付き添いで来て車もないのでインドアの私は日々部屋から見える景色をスケッチしていました、天然のクーラー最高!と思いながら満喫してました。
「部屋に毎日居ないで散歩でもしてらっしゃい!私のお気に入り教えてあげる!あんたはきっと好きよ!」
と毎日、私の部屋にお喋りに来る楽しく可愛らしいご年配の民宿の女将さん。
あのときはお世話になりました。
お二人共お元気ですか?
貴重な体験ありがとうございます(笑)
もう叫ぶことも、嘆くことにも疲れてしまった……
「 私はここにいる。助けて…… 」
声が枯れ果て、ようやく絞り出すように呟く。それがいま出来る私の精一杯。
いつからここにいるのだろう……記憶も曖昧になっている。
窓に近付き、指を這わせる。ボロボロの無惨な指先が、私のこれまでの日々の証だった。
「 誰も見てくれない……誰も私に気づいてくれない…… 」
どうしてだろう……
誰もこちらを見ようともしてくれない……
なぜだろう……
苦しいのに……
助けて…… お願い……
「 疲れた……もういいよ…… 」
楽になりたい……
開放されたい……
「気づいて……友達でしょ……お願い…… 」
楽しそう微笑む友達の姿を見つめながら、私はそう訴え続けた。
この声は届かない…… 誰にも……
「 ねぇ、本当の私はここだよ… 」
『 窓越しに見えるのは 』
今日は叔母が営む小料理屋の近所にある神社で、毎年恒例の夏祭りがあり、こじんまりとした花火も上がる。私はそれが細やかな楽しみで、大人になっても一人きりでふらりと行ってしまう。
夏祭りといえば浴衣、そう私にとって絶対的な定番だ。そして、今回も着物美人の叔母に素敵な浴衣を借り、着付けのお願いをしていた。
白地に紺色の縦縞、そこへ大きく咲き誇る紫陽花が、あちらこちらと顔を覗かせている、そんな可愛らしい浴衣であった。
「この赤い帯にして正解ね。とても可愛いわ、素敵よ」
叔母がとても嬉しそうに、そう言いながら鏡越しの私を見つめながら破顔する。
私も大好きな叔母の言葉が嬉しくて、鏡の前で可愛らしく締められた赤い帯が映える素敵な浴衣に包まれている自分に大満足していた。
そんなとき外から突然、凄まじい雷雨の音が聞こえ始めた。この小料理屋は長屋造りの為、店の座敷を使っていた私達は外の様子は全く分からない。
「私が見てくるね。すぐ戻るから待っていて」
そう私が言いながら座敷の襖に引き手に指を添え、急いでその場から離れた。既に用意してあった下駄を履き、カラリコロリと音を立てながら店の出入口に近付くほど、雨音が一際大きくなる。楽しみが霧散してしまうことを覚悟の上、鍵を回し引戸を一息にガラリと開けた。
引戸の音が掻き消えてしまう雷鳴が響き渡り、辛うじて店の軒先によって防ぐことが出来てはいたが酷い荒れた雨模様の世界がそこには広がっていた。
しかし、私が目を奪われたのは、軒先に雨宿りをしていた若い男性。白い半袖のシャツは肌に張り付き、黒いスラックスは重たそうに水を含んでいる。雫を滴らせる前髪を掻き上げて、憂鬱そうに鈍色の空を見つめている精悍な横顔から目を離せなくなり時が止まってしまった。
すぐに我に返り、慌ててその彼に声を掛ける。
「酷い夕立ですよね…。入道雲は何処へ隠れてしまったのかしらね」
『 赤い糸 』