『8月、君に会いたい』
素直になりたい。
そう思うことが多々ある。
自分にとって素直になること、それは、簡単なことではない。
自分にとって“恐ろしいこと”だ。
恐ろしいは言い過ぎかもしれないが、事実なのだ。
人との関わり方に苦悩し、人間関係にコンプレックスを抱えるようになってしまった。
それに、口下手も相まって。
本当は、素直に伝えることが出来ていれば、
君と花火大会に行きたい、
君と夏祭りだって行きたい、
それが叶ったかもしれない。
だけどもう、花火大会の日も夏祭りの日も過ぎてしまった。
秋の予感がする、8月最終日の夜。
私は一人、呟く。
『星を追いかけて』
気づけば今日も残業。
昨日も、一昨日も、そのまた前の日も残業していたことを思い出す。
椅子に長時間座り続けているせいか、腰がいたい。
本日の作業分をやっと片付け、ふぅ、と、ため息をこぼした。
「これで終わりっと。」
真夜中に、15階建てビルのだだっ広いオフィスに、自分だけ。そんな状況にも慣れた。
席から立ち、慣れた動作で固まった身体をほぐすように軽くストレッチをする。
「よし、早く行こう」
そう呟きながら、部屋を出てエレベーターのある
廊下に向かった。
廊下に出ると、主人を待つかのようにエレベーターがある。そのボタン、、ではなく、少し進んだ先にある非常階段の扉に迷わず、手がのびる。
疲れているのか、見慣れた非常口のマークとして描かれた人が、逃げているようではなく、何かを追いかけているようにも見えた。
「やっぱり疲れがたまってるなぁ」
疲労に叫ぶ身体を動かし、階段を上がる。
明日やらなければならない仕事を考えながら上がると、すぐに屋上の扉の前まできた。
自分が働いているオフィスが、最上階にあるため、階段を最後まで上がると、屋上になっている。
昼間の屋上は、ビルで働く者たちの憩いの場だ。
そっと扉に手を掛け、屋上に出る。
夜の屋上は、
「私だけのプラネタリウム。」
夜空をを見上げたその目に写るのは、ビルの明かりでも街を行き交う車のライトでもなく、宇宙が営んだ
目の端から端まで、広がるその星々に心が
贅沢にも地上よりも星に近い場所で、堪能できる。しかもひとりで。
「お母さんがよく言ってたなぁ、人生を終えたら、最後は星になるって。」
亡き母の言葉を思いだしながら、夜空にてを伸ばす。
「もしお母さんが星なら、私のこと見てくれてるよね。私、お母さんと過ごした日々を忘れない。ちゃんと生きるって、約束したことも。」
「だから、辛いことがあっても、空が雲っていたとしても、お母さんのこと探して必ず追いかけるから。」
星が一番綺麗に輝く場所まで、
追いかけるから。
『二人だけの。』
「今が永遠になればいいのに。」
君が言う。
月に照らされた波が、優しげな音を奏で二人の元をいったり来たり、繰り返す。
今日の海は一段と冷たい。と、君が呟く。
今宵の海はよほど冷たいのだろう。
君が続ける。
「二人だけでゆっくり話せるのは、何十年ぶりかな。」
どこか懐かしそうな表情で問いかける。
「さっきも言ったけど、今時が止まって永遠になればいいのにね。」
そう言い、寂しく笑う。
現実はそう上手くはいかない。
お互い永遠などないと分かっている。
僕の体温を奪う波が、分からせてくる。
もう、永くはないのだと。
「どうしてこうなってしまうんだろうね、」
海を見つめて、ひとり言のように君が呟いた。
「そうだ…、言い残したことは、ないの?」
月のように美しい琥珀の瞳が、僕を捉える。
少ししてから、僕はゆっくり力を振り絞り、答えた。
「…月が、綺麗、だ。」
その言葉に驚いたのか、目を見開き、動揺したように俯く。
僕と君の二人にしか聞こえない声で、絞り出すように言った。
「そんなの知ってるよ、ずっと前から…」
これが最後の、二人だけの時間。
僕の意識が遠退くなか、
君は、
とどめの一撃を落とした。
『夏』
この言葉を聞いて思い浮かべるのは、何だろうか。
「暑い」気温についてであったり、「お祭り」行事であったり、人それぞれだろう。
一番に思い浮かべ、そしてふたつみっつ。色んな事を思い浮かべるだろう。
特に一番始めに思い浮かべたものは、きっと、あなたにとって良いも悪いも、夏の記憶として、あなたに強く印象付けたものなのだろう。
それはいったい、何なのだろうか。
これはただの興味本位で、ただ知りたいだけなのだ。
それ以上の何かは、ないのだ。
隠された真実