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8/20/2025, 2:27:18 AM

『なぜ泣くの?と聞かれたから』


蝉が、ここぞとばかりに鳴く。
その鳴き声が、締め切った部屋にまで届き、嫌と言うほど真夏の真っ昼間ということを思い知らされる。


『なぜ…泣くの?』

親友の麻沙美と、久しぶりに交わした言葉はそれだった。

「だって、、っ、だって、、!」

麻沙美は、泣きじゃくる由奈を見つめ、戸惑いながらも、状況を飲み込もうとする。
麻沙美は、自分が普段とは違う場所で、由奈と会っていることに気がつく。


「…ここ、病院…?」

「そう"っ、だよ"、びょうっ、いん」

由奈は、必死に泣いているせいか、まともに言葉を話せない。
話す言葉に、所々嗚咽が混じる。

「あさ、み、が、意識が戻ったって、、」

思いもしない言葉に、麻沙美は驚きを隠せなかった。

「え…?」

「そうっ、だよっ、っ
 麻沙美っ、は、去年の入学式の日、登校中に事故に遭ったって、、麻沙美の、ママから、、っ」


由奈の“事故に遭った”、その言葉で麻沙美は、更に混乱する。

「…」

「麻沙美、その日からずっと、っずっと、、っ」

由奈が言おうとした言葉が、感情が高ぶり震える唇によって、うまく出てこない。

回らぬ頭でも、麻沙美には、その続きの言葉は、聞かずとも察しがついた。

「…」

病院のベッドは、久しぶりに目を開けたことと、外から差し込む日差しによってより白く、眩しく感じられた。

包帯でぐるぐる巻きにされた両腕両足と、意識と共に戻ってきた痛覚は、事の悲惨さを語っている。


「…ごめん、、」



「…謝らないでよっ、もう、起きないかと思った、、っ!」



「…ごめっ、ん、、ご、めんっ、、ゆな、、」



二人は、奥底に沸き出る感情を、必死に、必死に、言葉にならない声に乗せた。

8/1/2025, 3:54:58 PM

『8月、君に会いたい』


素直になりたい。

そう思うことが多々ある。
自分にとって素直になること、それは、簡単なことではない。

自分にとって“恐ろしいこと”だ。

恐ろしいは言い過ぎかもしれないが、事実なのだ。
人との関わり方に苦悩し、人間関係にコンプレックスを抱えるようになってしまった。

それに、口下手も相まって。


本当は、素直に伝えることが出来ていれば、

君と花火大会に行きたい、
君と夏祭りだって行きたい、

それが叶ったかもしれない。

だけどもう、花火大会の日も夏祭りの日も過ぎてしまった。


秋の予感がする、8月最終日の夜。
私は一人、呟く。

7/21/2025, 1:58:38 PM

『星を追いかけて』

 気づけば今日も残業。
 昨日も、一昨日も、そのまた前の日も残業していたことを思い出す。
 椅子に長時間座り続けているせいか、腰がいたい。


 本日の作業分をやっと片付け、ふぅ、と、ため息をこぼした。

 「これで終わりっと。」

 真夜中に、15階建てビルのだだっ広いオフィスに、自分だけ。そんな状況にも慣れた。 


 席から立ち、慣れた動作で固まった身体をほぐすように軽くストレッチをする。

 「よし、早く行こう」

 そう呟きながら、部屋を出てエレベーターのある
廊下に向かった。
 廊下に出ると、主人を待つかのようにエレベーターがある。そのボタン、、ではなく、少し進んだ先にある非常階段の扉に迷わず、手がのびる。
 疲れているのか、見慣れた非常口のマークとして描かれた人が、逃げているようではなく、何かを追いかけているようにも見えた。

 「やっぱり疲れがたまってるなぁ」

 疲労に叫ぶ身体を動かし、階段を上がる。
 明日やらなければならない仕事を考えながら上がると、すぐに屋上の扉の前まできた。

 

 自分が働いているオフィスが、最上階にあるため、階段を最後まで上がると、屋上になっている。

 昼間の屋上は、ビルで働く者たちの憩いの場だ。

 そっと扉に手を掛け、屋上に出る。


 夜の屋上は、

 「私だけのプラネタリウム。」 

 夜空をを見上げたその目に写るのは、ビルの明かりでも街を行き交う車のライトでもなく、宇宙が営んだ
 目の端から端まで、広がるその星々に心が


 贅沢にも地上よりも星に近い場所で、堪能できる。しかもひとりで。


 「お母さんがよく言ってたなぁ、人生を終えたら、最後は星になるって。」

 亡き母の言葉を思いだしながら、夜空にてを伸ばす。

 「もしお母さんが星なら、私のこと見てくれてるよね。私、お母さんと過ごした日々を忘れない。ちゃんと生きるって、約束したことも。」

 
 「だから、辛いことがあっても、空が雲っていたとしても、お母さんのこと探して必ず追いかけるから。」


 星が一番綺麗に輝く場所まで、
 追いかけるから。

 

7/15/2025, 4:28:32 PM

『二人だけの。』


「今が永遠になればいいのに。」

君が言う。


月に照らされた波が、優しげな音を奏で二人の元をいったり来たり、繰り返す。
今日の海は一段と冷たい。と、君が呟く。
今宵の海はよほど冷たいのだろう。


君が続ける。 

「二人だけでゆっくり話せるのは、何十年ぶりかな。」

どこか懐かしそうな表情で問いかける。


「さっきも言ったけど、今時が止まって永遠になればいいのにね。」

そう言い、寂しく笑う。


現実はそう上手くはいかない。
お互い永遠などないと分かっている。
僕の体温を奪う波が、分からせてくる。

もう、永くはないのだと。


「どうしてこうなってしまうんだろうね、」 

海を見つめて、ひとり言のように君が呟いた。


「そうだ…、言い残したことは、ないの?」

月のように美しい琥珀の瞳が、僕を捉える。


少ししてから、僕はゆっくり力を振り絞り、答えた。


「…月が、綺麗、だ。」

その言葉に驚いたのか、目を見開き、動揺したように俯く。

僕と君の二人にしか聞こえない声で、絞り出すように言った。


「そんなの知ってるよ、ずっと前から…」




これが最後の、二人だけの時間。




僕の意識が遠退くなか、

君は、

とどめの一撃を落とした。



7/14/2025, 3:01:42 PM

『夏』

この言葉を聞いて思い浮かべるのは、何だろうか。

「暑い」気温についてであったり、「お祭り」行事であったり、人それぞれだろう。

一番に思い浮かべ、そしてふたつみっつ。色んな事を思い浮かべるだろう。
特に一番始めに思い浮かべたものは、きっと、あなたにとって良いも悪いも、夏の記憶として、あなたに強く印象付けたものなのだろう。

それはいったい、何なのだろうか。


これはただの興味本位で、ただ知りたいだけなのだ。
それ以上の何かは、ないのだ。

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