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『星を追いかけて』

 気づけば今日も残業。
 昨日も、一昨日も、そのまた前の日も残業していたことを思い出す。
 椅子に長時間座り続けているせいか、腰がいたい。


 本日の作業分をやっと片付け、ふぅ、と、ため息をこぼした。

 「これで終わりっと。」

 真夜中に、15階建てビルのだだっ広いオフィスに、自分だけ。そんな状況にも慣れた。 


 席から立ち、慣れた動作で固まった身体をほぐすように軽くストレッチをする。

 「よし、早く行こう」

 そう呟きながら、部屋を出てエレベーターのある
廊下に向かった。
 廊下に出ると、主人を待つかのようにエレベーターがある。そのボタン、、ではなく、少し進んだ先にある非常階段の扉に迷わず、手がのびる。
 疲れているのか、見慣れた非常口のマークとして描かれた人が、逃げているようではなく、何かを追いかけているようにも見えた。

 「やっぱり疲れがたまってるなぁ」

 疲労に叫ぶ身体を動かし、階段を上がる。
 明日やらなければならない仕事を考えながら上がると、すぐに屋上の扉の前まできた。

 

 自分が働いているオフィスが、最上階にあるため、階段を最後まで上がると、屋上になっている。

 昼間の屋上は、ビルで働く者たちの憩いの場だ。

 そっと扉に手を掛け、屋上に出る。


 夜の屋上は、

 「私だけのプラネタリウム。」 

 夜空をを見上げたその目に写るのは、ビルの明かりでも街を行き交う車のライトでもなく、宇宙が営んだ
 目の端から端まで、広がるその星々に心が


 贅沢にも地上よりも星に近い場所で、堪能できる。しかもひとりで。


 「お母さんがよく言ってたなぁ、人生を終えたら、最後は星になるって。」

 亡き母の言葉を思いだしながら、夜空にてを伸ばす。

 「もしお母さんが星なら、私のこと見てくれてるよね。私、お母さんと過ごした日々を忘れない。ちゃんと生きるって、約束したことも。」

 
 「だから、辛いことがあっても、空が雲っていたとしても、お母さんのこと探して必ず追いかけるから。」


 星が一番綺麗に輝く場所まで、
 追いかけるから。

 

7/21/2025, 1:58:38 PM