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『なぜ泣くの?と聞かれたから』


蝉が、ここぞとばかりに鳴く。
その鳴き声が、締め切った部屋にまで届き、嫌と言うほど真夏の真っ昼間ということを思い知らされる。


『なぜ…泣くの?』

親友の麻沙美と、久しぶりに交わした言葉はそれだった。

「だって、、っ、だって、、!」

麻沙美は、泣きじゃくる由奈を見つめ、戸惑いながらも、状況を飲み込もうとする。
麻沙美は、自分が普段とは違う場所で、由奈と会っていることに気がつく。


「…ここ、病院…?」

「そう"っ、だよ"、びょうっ、いん」

由奈は、必死に泣いているせいか、まともに言葉を話せない。
話す言葉に、所々嗚咽が混じる。

「あさ、み、が、意識が戻ったって、、」

思いもしない言葉に、麻沙美は驚きを隠せなかった。

「え…?」

「そうっ、だよっ、っ
 麻沙美っ、は、去年の入学式の日、登校中に事故に遭ったって、、麻沙美の、ママから、、っ」


由奈の“事故に遭った”、その言葉で麻沙美は、更に混乱する。

「…」

「麻沙美、その日からずっと、っずっと、、っ」

由奈が言おうとした言葉が、感情が高ぶり震える唇によって、うまく出てこない。

回らぬ頭でも、麻沙美には、その続きの言葉は、聞かずとも察しがついた。

「…」

病院のベッドは、久しぶりに目を開けたことと、外から差し込む日差しによってより白く、眩しく感じられた。

包帯でぐるぐる巻きにされた両腕両足と、意識と共に戻ってきた痛覚は、事の悲惨さを語っている。


「…ごめん、、」



「…謝らないでよっ、もう、起きないかと思った、、っ!」



「…ごめっ、ん、、ご、めんっ、、ゆな、、」



二人は、奥底に沸き出る感情を、必死に、必死に、言葉にならない声に乗せた。

8/20/2025, 2:27:18 AM