理想と現実は裏返しだ。少なくとも今の私の理想が現実に近づくことはない。
「〇〇高校に合格する」
「小説を一作書き上げる」
「部活でレギュラーに入る」
たいそうな理想を掲げるが、現実はそれらとは程遠いものだった。
「努力」が無いから。
己が中の怠惰がそうさせる。ほとんどがスマホを触って過ごす日々。未だに現実が理想の遠い対角線から動かない。
正直、一生懸命な努力をしてこなかった。中途半端なラインで満足していたからだろうか。
少しづつでいい、今から頑張っても遅くないだろうか。本気で頑張って、死ぬ気で頑張るというのを体感できるだろうか。
理想が現実となり、その裏返しが過去になれるために、今は進むだけだ。
お題『裏返し』副題『理想と現実』ジャンル『随筆』
『もしタイムマシンがあるなら、ぼくはおばあちゃんに会いに行きたいです。りゆうは、おばあちゃんにたくさんつたえたいことがあるからです。おばあちゃんはぼくが小学校に入学するまえにしんじゃいました。おばあちゃんにばいばいもありがとうも言えなかったから、すごくかなしかったです。なので、おばあちゃんに会ってたくさんありがとうを言いたいです。』
『もしもタイムマシンがあったら』を題材にした小学二年生の頃の作文。今も俺は祖母に何も言わなかったことを少しだけ後悔している。
あの時から数十年経ち、俺はもう四十代後半だ。とっくにひとり立ちをし、結婚して子供も二人いる。素敵な妻と可愛らしい子供に恵まれて幸せだ。これからもずっとこの四人で暮らしていきたい。
けど、そんな子供や妻ともいつかは別れを告げる日がくる。子供たちには日頃から感謝を伝えることを忘れないようにと教えている。俺と同じような後悔をしてほしくないから。
俺が五十歳になる前の頃、母が突然倒れた。長くは持たないらしい。
知らせを受けて俺は病院に急行した。病室のドアを開けた先には、沢山の医療機器に繋がれた母がベッドに横たわっていた。
「あら、あなた……来てくれたのね……」
消え入りそうな声で母は言った。やせ細った全身、生気のない顔。俺は全てを悟った。いつか来るものだと分かっていても、いざその時になればやはり悲しいものだ。
いくら悲しんでもいい。俺はただ、後悔したくない。
「母さん、今までありがとう。俺の母さんが、あなたで……本当に、良かった……」
俺は母に必死に感謝を伝えた。母も俺の声に答え続けた。後から俺の家族が病室に来ても止めることはなかった。
「17時59分、ご臨終です」
「おばあちゃん、ありがとう……ありがとう……」
「お義母様……本当に、お世話になりました」
「おばあちゃんとあそんだこと、ぜったいわすれないからね!」
母の死亡を告げられ、家族も一人一人感謝を告げた。
「母さん、ありがとう。おやすみ」
今の俺に、後悔はない。
主題『もしもタイムマシンがあったなら』
副題『後悔』
私の名前は実愛。実愛って書いてみのり。
両親はこの名前を気に入っていた。私も気に入っていた。小学校高学年になるまでは。
「実愛ちゃんの漢字、なんか読みにくい」
「だよね。ひらがなにして書いてくれない?」
「みの……みのあちゃん?ああ、みのりちゃんか。ごめんね」
自分の名前を奇妙に思う人が増えてきて、嫌で恥ずかしくて私は名前を漢字で書く回数を減らしていった。
どうして私だけ変に思われるんだろう?その悩みはいくら考えても消えなかった。
「それ、キラキラネームってやつじゃない?」
中学生になってしばらくしたある日、友達の千代美がそう言った。
「きらきらねーむ?千代美、どういう意味?」
初めて聞く言葉に疑問符が浮かび上がる。千代美は少し説明を始めた。
「普通とは違った読み方をしたり、珍しい漢字の組み合わせをした名前のことって聞いたことあるの。実愛ちゃんの名前も多分そのキラキラネームの類なんだと思う」
「普通とは、違った……」
普通とは違う。そのせいで変に思われたり馬鹿にされた。胸が苦しい……
なんで親はこんな名前にしたんだろう。それならひらがなで『みのり』の方が良かった。千代美もそうだけど周りは普通なのに――
言葉が出ない。なんて返せばいいのか。
「私は実愛ちゃんの名前いいと思うよ」
「え?」
千代美が私の手を取る。彼女の方を向くと真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「きっと、実愛ちゃんの名前もお父さんお母さんが心を込めて付けてくれたんだと思うよ。名前に『普通』なんてないよ。どんな名前でも、親が愛情持って付けれくれたたった一つの名前なんだから」
千代美の言葉が、少し心を軽くしてくれた気がした。
何を『変な名前』で悩んでいたんだろう。こんなの名前をつけてくれたお母さんやお父さんにも失礼だ。
ずっと嫌だった『実愛』という名前。今からでも、大切にしていけるかな。
「ありがとう。千代美」
「うん。実愛ちゃんは、自分の名前に自信を持てばいいんだよ」
「というか、実愛ちゃんの名前の由来って何から来てるの?」
「由来?」
自分の名前の由来、今まで気にしたことがなかった。
「実愛ちゃん知らないんだ。今度聞いてみたら?可愛い名前だし、きっといい意味だと思うよ」
「……そうだね。聞いてみよう」
私は家に帰ったら早速聞こうと思った。
本日のお題『私の名前』副題『キラキラネーム』