『もしタイムマシンがあるなら、ぼくはおばあちゃんに会いに行きたいです。りゆうは、おばあちゃんにたくさんつたえたいことがあるからです。おばあちゃんはぼくが小学校に入学するまえにしんじゃいました。おばあちゃんにばいばいもありがとうも言えなかったから、すごくかなしかったです。なので、おばあちゃんに会ってたくさんありがとうを言いたいです。』
『もしもタイムマシンがあったら』を題材にした小学二年生の頃の作文。今も俺は祖母に何も言わなかったことを少しだけ後悔している。
あの時から数十年経ち、俺はもう四十代後半だ。とっくにひとり立ちをし、結婚して子供も二人いる。素敵な妻と可愛らしい子供に恵まれて幸せだ。これからもずっとこの四人で暮らしていきたい。
けど、そんな子供や妻ともいつかは別れを告げる日がくる。子供たちには日頃から感謝を伝えることを忘れないようにと教えている。俺と同じような後悔をしてほしくないから。
俺が五十歳になる前の頃、母が突然倒れた。長くは持たないらしい。
知らせを受けて俺は病院に急行した。病室のドアを開けた先には、沢山の医療機器に繋がれた母がベッドに横たわっていた。
「あら、あなた……来てくれたのね……」
消え入りそうな声で母は言った。やせ細った全身、生気のない顔。俺は全てを悟った。いつか来るものだと分かっていても、いざその時になればやはり悲しいものだ。
いくら悲しんでもいい。俺はただ、後悔したくない。
「母さん、今までありがとう。俺の母さんが、あなたで……本当に、良かった……」
俺は母に必死に感謝を伝えた。母も俺の声に答え続けた。後から俺の家族が病室に来ても止めることはなかった。
「17時59分、ご臨終です」
「おばあちゃん、ありがとう……ありがとう……」
「お義母様……本当に、お世話になりました」
「おばあちゃんとあそんだこと、ぜったいわすれないからね!」
母の死亡を告げられ、家族も一人一人感謝を告げた。
「母さん、ありがとう。おやすみ」
今の俺に、後悔はない。
主題『もしもタイムマシンがあったなら』
副題『後悔』
7/22/2024, 1:35:09 PM