saku

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9/26/2023, 2:07:51 AM


どの窓からの景色もよく覚えてる。
どの方角の窓からどんなものが見えたかも覚えてる。

家はもちろん
教室
ホテル
お店
病院

電車


そのうち
宇宙船の窓からの景色も覚えてる
なんて言うかもしれないなあ。

9/22/2023, 11:58:37 AM


高熱出して全身痛くて
ロキソニン飲んで夢見てた
何度も何度も
何日も

夜、一人で買い物して、パンパンのエコバッグ三つ抱えて車に向かってた。
星が異様に輝いてて、
キラキラというよりほとんどギラギラ、星がこっちに迫ってくるみたいだった。
思わずわあ!ってしばらくの間見上げてた。
駐車場の真ん中で、迷惑なはずなのに
両肩がすっごく重いはずなのに
…まあ夢なんだけど。

夢の中には優しくて懐かしくて、
思い出そうとするだけで涙が溢れるものいっぱいあった
居心地は良くなかったけど、やっとやっと慣れた場所
頑張って馴染んだ自分の居場所

もうお別れなんだよって、
声が聞こえた

その声で目が覚めて、
カーテン引っ張ったら夜空が見えた
熱…まだ高いなあ




9/19/2023, 4:46:39 AM

夜景

夜のバスに乗り込んで、みんなで見に行った長崎と函館。あんまり綺麗でワーワー騒いで、ふと振り返ったら酷く車酔いしてる人がいて、気の毒だなあと思ったこと。

かげろふの日記。
なぜかハマって何度も読んでるうちに、語り手の母より息子の道綱の姿をハッキリ浮かべられるようになった。

野分の後の山屋敷。
湿った渡り廊下を道綱が歩いてる。
歩みはだんだん遅くなり、ついには廊下の途中で止まってしまった。
柱に額をくっつけたまま、右手で静かに烏帽子を取った。
その指先に一瞬走った小さな火花。
女達は野分の片付けに気を取られ、慌ただしく走り回っている。
道綱に気付く者はいない。
穏やかで優しく誰よりも母思いの息子から放たれる雷(いかづち)に。
小さなため息ととも溢れ出た彼の声。
「そんならどうすりゃいいんだよ」

ディズニーランドの帰りの景色。
保育園の頃に見た強烈な夢と全く同じ。
大人になった私が車を運転してる。
夜の高速道路。走ってるのは黒くて平べったい、プリウスみたいな車だけ。
視点は交差する上の道路から。
たくさんのオレンジ色の照明に照らされて、後部座席がよく見える。
中には薄い布にくるまれた子供が二人眠ってる。
獰猛な生のエネルギー。その塊二つ。

夜景と聞いて、思い浮かぶイメージはこれくらいかな。

9/17/2023, 6:54:13 PM

10歳の時、リハビリとは別に理学療法室に通っていた。

そこは水彩や油彩、木彫りや機織りに革細工、他にもただただビー玉を箸で掴んで移すだけの道具などがぎっしりと、でも整然と配置された、病院の中とは思えない部屋だった。
そこは楽しげではあるけれども、身も心も健康な人が集まる場所とは全く違う、静かで独特な雰囲気の空間だった。
担当の美人の先生に許可さえ貰えば、時間内は好きなことをして構わなかった。

廊下の突き当たりにあってエレベーターからは遠いので、目が見えて歩ける人のほとんどは、非常階段からその部屋に出入りしていた。
非常階段は真っ白で、歩くとポテポテ変な足音がした。
踊り場の明かり取りの大きな窓からは、看護学生の寮が二つ並んでるのが見えた。
今でも似たような建物が二つ並んでいるのを見ると、理学療法室の匂いを思い出す。

年末が近い冬のある日、私は小さな革の小銭入れを作ることにした。
壁際に造られたカウンター式の机には、工場で右腕を大怪我したトミナガさん、松葉杖でリーゼントのお兄さん、そして私の三人が並んで座り、革に下絵を描いていた。
トミナガさん「sakuちゃんは何して遊ぶのが好きなん?」
静かな部屋に、雷みたいなトミナガさんの地声が響きわたる。
私「マンガ読んだり、ピアノ弾いたり、 お花摘んだりかな…」
お兄さん「えーかわいい!どこでお花摘んでんの?」
私「家の近くに一つだけ畑があるの。春になったら菜の花が咲いて全部黄色になるの」
兄「そりゃいいね!治ったらお兄ちゃんとそこ行こー」
ト「sakuちゃん変な人に付いてったらダメよ。おっちゃんも一緒に行ったげるからな」
兄「片腕の大男が一緒にお花摘みなんて余計怪しっすよ、アハハ!」
…とか何とか、作業をしながら三人でいろんな話をダラダラ喋って楽しかった。
そんな日々が続いていた。

そのうち手術が決まり、何となく一緒に使い始めようと思ってた小銭入れの完成は、私だけが遅れることになった。
手術中急な出血が起こってしまい、保存血が合わない私は、母からの輸血では量が足りず、学校に行っていた兄を父が呼びに行って輸血してもらい、何とか事なきを得た。
それまでに10回以上も手術を重ねて、麻酔が効きにくくなっていた私は、兄の血を待つ間に足された強い麻酔のため、意識がちゃんと戻るのに数日かかった。

やっと目が覚めた時、開口一番母にこう言ったそうだ。
「お花畑で遊んだよ。踊ってた。いい匂いアカサタナハマラヤワ…」
知らせに駆けつけた看護師さんはうろたえる母に「心配しなくて大丈夫。強い麻酔のせいだから、否定せずハイハイって聞いてあげて」と言ったそう。

その後水を取りに外へ出た母は、廊下でトミナガさんとお兄さんに会ったので、今やっと意識が戻りましたと話したという。
手術の後、なかなか目が覚めないと聞いて心配した二人は、遠い整形外科の病棟から、毎日様子を見に来てくれたそうだ。
「あの子、お花畑で踊ってたんですって。」と母が言うと、お兄さんが「花畑ですか!」と叫ぶようにして、その場にしゃがみ込んでしまったそうだ。
廊下にいると邪魔になるので、とりあえず談話室に連れて行くことになった。
後のトミナガさんの話によると、その途中いろんな女の人が集まってきて、みんなでお兄さんの話を聞いてあげたらしかった。
「いや〜あん時の談話室はちょっとしたハーレムでしたよ!」
ニヤニヤ笑いながら話すトミナガさんの声を思い出す。
私はいつもニコニコ笑ってたリーゼントのお兄さんが泣いてる姿なんて、全く想像もつかなかった。

「「あんな小さい子が何十回も手術だなんてひどいよ。俺みたいなのが代わりに受ければいいんだ。それさえできないなんて何のために生きてんだ」って言って泣いてたの。」
談話室から戻ってきた隣の子のママさんが言うと、
「見た目は恐いけど、純粋で優しい子なのね。よく見たらものすごいハンサムよね。」
カーテン越しに母がそんなことを言っていたのを私はウトウトしながら聞いていた。

後になって知ったのだが、彼は舞台で踊るダンサーだったそうだ。
やっと仕事が軌道に乗り始めた矢先、足に大怪我を負ってしまい、再起を掛けたが難しく、結局は父親が迎えに来て東京のアパートを引き払ったということだった。

桜が咲き始めた頃、お兄さんが退院することになった。
漁師のお父さんと二人で病室に挨拶に来てくれた。
看護師さんや患者さんたち、とりわけ女の人がたくさん集まって来て名残りを惜しんでいた。
みんな口々に、立派な後継ぎができて良かったですね、偉いわがんばって人生はこれからよ的なことを言って励ましていた。
お兄さんもスッキリしたような顔で笑っていた。リーゼントはサラサラの髪になっていた。松葉杖はもう無くなっていたけど、足は引きずったままだった。
私は話しかけたかったけど、どうにも恥ずかしくて黙ってた。

あれ夢だったのかな。
ホントにお兄さんと遊んだよね?
だって起きたら菜の花の匂いしたもの。
お兄さん、踊ってた。
ものすごく上手だったよ。
大人の人が踊るとこ、初めて間近で見た。
お日様が照らす中、手も足も真っ直ぐ伸びて信じられないくらい体が軽くて柔らかくて、まるで水が流れてるみたいだった。
すっごく綺麗だった。
小銭入れ作ってる時とは全然違う人だった。
sakuちゃん早く起きなよ、俺と約束したじゃん。起きて一緒にここで遊ぶんだろ?ねえ早く目を覚ましなよ!
って、身体の言葉で一生懸命伝えてたよね。
私、ちゃんと分かったよ。

あの時恥ずかしいだなんて思ってないで、言えばよかった。
ずいぶん時間経ったけど、今からでも伝えよう。伝えなくては。

お兄さん、あの時祈ってくれてありがとう。私、元気に暮らしてるよ。
目を覚まして、いつかあの菜の花畑で遊ぼうね!

9/16/2023, 7:31:01 PM

空(くう)から生まれたひとつの星
星は産声をあげる
大雨、突風、竜巻、雷鳴。とにかく大荒れに荒れ狂う
まるで生まれたばかりの赤ちゃんが
「今ここに生まれたよう!」
って精一杯の泣き声で、
その存在を世界に宣言してるみたい

それから何億年かの月日が流れ、
星の大気は海と空と陸とに分かれ始める
まだ誰も、何もいない
ただひたすらに大地が広がっている
ふとそこに風が吹いた
最初の風
静かな

…あれ?このイメージ、知ってる。
どこかのライブハウスで聴いたのか、
テレビかなにかで目にしたのか。
アンコールのそのまた後の、誰かの急なリクエストに、さらっと応えて歌ってた
めちゃくちゃかっこよくて痺れたのと
その歌を聴いて浮かんでくる風景が
あまりに懐かしかったこと
誰も見たことないはずなのに
誰もがみんな知っている
遠い遠い昔の風景

ギターの音、
組んだ足、
強くてものすごく温かい声、
ゴロワーズを吸ったことがあるかい?
ただ風が吹いてた
優しく

思い出すのをためらったり、
急に怖くなり途中でシャッター降ろしたり、
そんなん全部やめたんだった。
知らないはずなのに思い出せるということは、
それはやっぱり知ってるってことなんだ
私は思い出す
ただ風が吹いていたあの風景

♪なんにもない なんにもない
まったくなんにもない
生まれた生まれた なにが生まれた
星がひとつ 暗い宇宙に 生まれた
星には夜があり そして朝が訪れた
なんにもない大地に ただ風が吹いてた

(「やつらの足音のバラード」より)





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