saku

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8/12/2023, 10:16:28 AM

君の奏でる音楽

ライブハウス。
すぐ目の前のギターのうねりを全身に浴びて、呼吸もままならない
音の世界に敢えてのめり込んでいく
爆音に溺れ、自ら深い底に引きずり込まれる
悉有仏性
どうとでもなれ
大人になっていて良かったと感じる瞬間
起きているのか寝ているのか分からない
どっちだっていいや
どっちも同じなんだから

何もかも手放そう
ひとつ残らず昇華させてしまおう
光の中から途轍もなく大きな手が伸びてくる
ベースをかき鳴らす指
私たちも両腕を上げて応える
手のひらが触れる

いちばん上のカードをめくる
片眼の男、真珠で出来た眼
次のカード
風で目一杯ふくらんだ舟の帆
その次は
逆さに吊られた男
それから女、むせかえる白粉の匂い
金色の皿から垂れる蝋
分厚いステーキ
金箔の貝型船
車輪
さて最後のカードは
しっかと大地を踏みしめる巨人の足
雷神だ
雷神のカードが出た

彼の声が響き渡る
鼓膜が割れてしまいそうな声で歌ってる
どれもみな良い
みなどれも良い
金色をした愛しい粒々共よ…

8/12/2023, 6:37:03 AM

電車に乗っていた。
車内は空いていて、通路を隔てた窓際の席にはスーツ姿の男の人がすやすや眠っていた。黒いネクタイに大きな紙袋。法事とかの帰りかな。

窓の外は一面の稲だ。夏の光を反射しながら次々と流れて行く緑色。
私は遠くの山々を見る。見慣れない稜線をゆっくりとなぞって行く。
この路線を毎日使う人にとっては懐かしく、親しみのある曲線なのだろうなあ。そんなことを思いながら再び田んぼに視線を落とした。

人がいる。二人。おじいさんと子供が手を繋いで立っている。
首にタオルを掛けたおじいさんは麦わら帽子を被っていた。
映画の場面みたい。何の映画?天国と地獄?いや違う。私は思わず首を傾げた。
この記憶、何だっけ?
そうしている間に二人の姿はみるみる小さくなってゆく。
その時風に煽られて、おじいさんの帽子が高く舞い上がった。
それと同時に勢いよく走り出す男の子の姿がちらっと見えた。

その時電車はトンネルに入り、窓は一瞬で真っ黒になった。まるでスイッチを切ったテレビの画面だ。

さっきのは…映画の記憶?犯人役の山崎勉が男の子を誘拐した話の?
いや、多分この辺に住むおじいちゃんとお孫さんだよ。散歩がてら特急を見にきたとか、そんな感じじゃない?
…帽子は本当に飛んだ?夢?
いいえ。ちゃんと起きてた。
もしかして私以外の人が見た夢だったりしてね。

短いトンネルはすぐに抜けて、車窓は田んぼと打って変わって山の斜面になった。コンクリート製のワッフルみたいな模様が続く。
やっぱり窓の画面のチャンネルを切り換えたみたいだ。

何やらごそごそ包みを開ける音が聞こえる。
さっきまで眠っていた、通路の向こうの男の人がいつの間にか起きて、お昼を食べるところだった。
包みを開けた拍子に、紙ナプキンが私の足元に舞い降りてきた。
それを拾って渡す時、頭の中でカチッと音が鳴ったように感じた。

ナプキンに「おいしいサンドイッチの店 シャポー」という文字と、麦わら帽子のイラストがハッキリ見えた。
あ…この人が見た夢だったのか。子供の頃の夢を見てたんですね。
「すみません」そう言って彼はナプキンを受け取った。

車内に響く音が変わった。
窓の外は大きな川が流れていた。
画面は今度は赤い鉄橋に切り換わった。

8/10/2023, 4:00:48 PM

従姉妹から荷物が送られて来た。
箱の中身は昨年亡くなった根津の伯父の万年筆と、伯父が書きためたノートのコピー、名物のお煎餅、そして一筆箋に認められた従姉妹の手紙だった。

手紙を読んでいると、3歳の息子がお煎餅の箱を持ってきた。私は箱紐を外して、個別包装の袋も開けてあげた。
息子は煎餅には目もくれず、輪っかになった紐で遊びはじめた。
最近この遊びにハマってるみたい。

私は手紙を読み終え、次はノートを読み始めた。書き出しはこうだ。
「人生には青春もなければ老後もない。そんなものは昼寝に見る、徒夢に過ぎぬ。」
うわ、いかにも皮肉屋の伯父さんらしい。ノートは子供の頃の記憶から始まる、いわゆる自分史だった。
伯父とはそんなに親しい訳ではなかったが、初めて知るエピソードはなかなか面白く、刺激的だった。

それにしても青春もなければ老後もないだなんて。
そうかな。そんなことないけどな。
私は子供と生きるようになって、人生は始まりもなければ終わりもない、山手線みたいなものだと思うようになったけどな、伯父さん。
そんな風に思いを馳せていた時、不意に横にいた息子が言った。
「ママ、終点だよ。終点のはままつちょうにとうちゃくしました。おりてくださーい」

伯父が息子の口を借りて返事をしたようで、思わずフフと笑ってしまった。
私は持っていたノートを机の上に置くと
「運転手さん、乗せてくださーい」
そう言って、紐で出来た電車に乗り込むと、始発駅の浜松町から出発した。

8/9/2023, 1:31:14 PM

ハンモックで眠る
細々と作ったものを売る
延々と研いでめちゃくちゃ切れる包丁にする
路上ライブする
バリスタ選手権に出る
鳥人間コンテストに参加する
梨とか葡萄とか大根とかを収穫する
アフリカの平原で日の出を見る
本当に思ったことだけを正確に伝える
すごく複雑な服をデザインして切って縫って完成させて着る
宝石の鉱脈を探し当てて掘る
宇宙から地球を見る

今、やってみたいと思いついたこと全部リストアップしてみた
リストアップしただけで楽しいな
上手くいかなくたっていいんだもの



8/8/2023, 12:42:23 PM

蝶よ花よ

もし自分の望みが全て、キッチリ正確に、思う通りになるとしたら、何を望みますか。

例えば健康、申し分ない経済力、自由な時間、快適な立地の快適な家、家族、ペット、分かり合える友人、難しい資格、あらゆるジャンルで良席が取れる人脈、行きつけのバーetc
とにかく何でも叶うとしたら。

とりあえず上に挙げた例はまあ全部として、他には。
そうだなあ…若さ?美貌?何かのものすごい才能?
じゃあそれも足すとして、他には。

他には、うーん。。
「君の望みは何でも叶うし叶えていいんだよ」って、気が済むまで言ってくれる人、すごく大事にしてくれる人がいたらなあ。
……。

ま、自分で自分に言うしかないか。その方が早い。
蝶よ花よと大切にしてみよう。







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