お題「開けないLINE」
すれ違いが始まりの喧嘩
始まりは些細なものだったはずなのに、
意地の張り合いをしてしてしまっていた。
たった一言のごめんなさいを打つために、どれだけの時間を使っただろう、どれだけ手が震えていただろう
スポン、という愉快な音と同時
胸には強い圧迫感と焦燥感。
なんの緊張なのかはもはやわからない。
ただひたすら、自分の胸をなでながら、
大丈夫とやり過ごした時間。
ピコン、と着信音が鳴り、君の名前と
「新着のメッセージがあります」
の表示にどきりとする。
ふぅ、と深呼吸をしても、なかなか指が進まない。
「どうか仲直りできますように」
精一杯の願いを込めて、指に力を込めた。
お題「不完全な僕」
コンコン、と優しく響いたノック音。
中から何やら「ドン」と音がした。
そっと扉をあけて見ると、何やら、震える男の子がそこに蹲っていた。
「来るな」彼はそう言って、プルプル震えている。
「大丈夫、僕は君を攻撃したりしないよ」
僕の言葉に、彼は「本当に?」と言いだけな目で僕を見上げた。
「ずっと怖かったんだよね。ごめんね、気づいてあげられなくて」
努めて暖かな声で告げると、彼はとたんに大粒の涙を流し始めた。
「大丈夫、君がこれから出会う人たちは、君を嫌ったりしない。君のことをちゃんと観てくれる、温かい人たちだよ」
そう言って、ソッと彼の体躯を抱きしめた。
「はじめはとても怖くて、
時折「どうして?」って不思議に思うかもしれない。
だけど、それを信じることができたら、
きっと君は今よりもっと素敵な気持ちでいられるよ」
じわりじわり、何かが揺さぶられ、
暖かく、包み込まれるような心地が僕を巡る。
「よく頑張ったね、過去の僕」
まるで炭酸が溶けたように、ぽっかり空間が出来上がる。
すぐには開けなくていい。少しずつでいいから、
これから、僕と一緒に…もっと素敵な出会い、優しさを受け取れるようにしていこう。
よろしくね、過去の僕ら。
お題「香水」
そばにいて気づいた優しい匂い。
柑橘ではない、かと言って甘ったるいしつこい匂いでもない。
ただ優しく、甘いのだ。なんとも言えない匂い。
「何か香水つけてる?」と聞いたけれど、何もつけていないという。
「じゃあシャンプーかなぁ」という所作からも、ふわっと優しく風に乗ってきた。
香水ではないなら探しても無意味だろうと思いつつ、その日以来、私は香水コーナーを通るたび、
あの人に似た香りを探している。
妙に安心する、あの香りを。
お題「言葉はいらない、ただ…」
私が落ち込んでいる日は、ただ流しているだけで内容が何一つ頭に入らないテレビを一緒に座ってみてくれたり、一人になりたいことを察すれば、
ソッと部屋を変え一人にしてくれた。
元気な私がわがまま言っても、
同じような無邪気さで受け止めてくれる。
いつだって彼はそんなふうに、
言葉ではなく行動で示す人だ。
それは彼が落ち込んでいる場合も同様で
疲れている日は突然後ろから抱きついてきたり
表情がいつもより固くなったりする。
彼は昔から「何を考えているのかわからない」
と言われるが、私からすれば筒抜けのようなもの。
''優しさ''や''愛''を行動で見せてくれるから、
私も同じような形でお返しをする。
そうやって通じ合うたび、愛おしくなる。
お題「突然の君の訪問。」
どうしてそこに足を運んだのか、
そしてなぜその扉を開けようと思ったのか、
それは僕にもわからなかった。
ただ、なんとなく。本当にただ''なんとなく''
トントン廊下を歩いて、
ガチャリと下げたドアノブの、
その先でちょこんと座っていた。
過ごしてきた時間と何も変わらない、
優しい顔をしてこちらを見ていた。
僕が泣いていたときも、いつだって
そんな顔をしてそばにいてくれたよね。
「……っ」
パッと飛び込んだ景色は、
見慣れた自分の部屋の天井だ。
フラリと同じ部屋の扉を開けてみても、
冷たい空気が体を撫でるだけで、
君はどこにもいなかった。
「…ごめんね。ずっと泣いてた僕のために、
夢の中に会いに来てくれたの?
あの日、ちゃんとお別れを言えなかったもんね。
ありがとう、大好きだよ」
静かに部屋の扉をひいて、バタンと時間を進めた。