お題「不完全な僕」
コンコン、と優しく響いたノック音。
中から何やら「ドン」と音がした。
そっと扉をあけて見ると、何やら、震える男の子がそこに蹲っていた。
「来るな」彼はそう言って、プルプル震えている。
「大丈夫、僕は君を攻撃したりしないよ」
僕の言葉に、彼は「本当に?」と言いだけな目で僕を見上げた。
「ずっと怖かったんだよね。ごめんね、気づいてあげられなくて」
努めて暖かな声で告げると、彼はとたんに大粒の涙を流し始めた。
「大丈夫、君がこれから出会う人たちは、君を嫌ったりしない。君のことをちゃんと観てくれる、温かい人たちだよ」
そう言って、ソッと彼の体躯を抱きしめた。
「はじめはとても怖くて、
時折「どうして?」って不思議に思うかもしれない。
だけど、それを信じることができたら、
きっと君は今よりもっと素敵な気持ちでいられるよ」
じわりじわり、何かが揺さぶられ、
暖かく、包み込まれるような心地が僕を巡る。
「よく頑張ったね、過去の僕」
まるで炭酸が溶けたように、ぽっかり空間が出来上がる。
すぐには開けなくていい。少しずつでいいから、
これから、僕と一緒に…もっと素敵な出会い、優しさを受け取れるようにしていこう。
よろしくね、過去の僕ら。
8/31/2022, 1:00:59 PM