題 風のいたずら
突風が吹く。
あっ!!!
私の被ってる帽子をふわりとさらっていくと、そのまま帽子は下に落ちてコロコロと道路を転がっていく。
まってっ!
私は読んでいた本をベンチに置くと咄嗟に立ち上がって逃げていく帽子を追いかけていく。
ふわり、少し風が緩んで帽子の転がる速度が下がったかと思うと、私が手で掴もうとするとヒュルーンとまたしても強めの風が帽子をさらっていく。
私と風の帽子追いかけっこをしているようだ。
しかも坂道の傾斜もあいまって、帽子はどんどん転がっていってしまう。
「まって~~~!!!」
私の声に風も帽子も応えてくれるはずもなく、どんどん先へ先へと行ってしまう。
このまま先に転がると大通りに到達してしまう。
そしたら帽子が車道に転がって車に潰されるし、交通量多いから取りに行くのが困難になってしまう。
「わーーー待って待って!」
思わず口に出た言葉。
私はそう言いながら走るスピードを早める。
運良く少し風が緩くなる。
よしっ!私は走るスピードを限界まで早めて、何とかハシッと帽子の端っこを握った。
良かった。
あと少しで車道に転がり落ちる所だった。
私は手の中の無事な姿の帽子をみて安堵のため息をつく。
そして、帽子をしっかり被り直すと元きた道を引返す。
あれ?何か忘れてるような…。
あ、本っ!
不意に思い出す。
ベンチに置きっぱなしだった。回収に向かわねば。
そう決意すると、走って坂を登って今度は向かい風と戦いながら本の元へと走っていったのだった。
題 透明な涙
透明な涙はいつまでも止まらなかった。
私の好きな人は、私を見てくれないから。
私は涙を流すしかなかった。
だって何をしても振り向いてくれなかったから。
どうしても、私じゃだめだったから。
他の子を見ていたから。
私は諦めるしかなかったんだ。
それでも、学校で話すあの人とあの子を見て、辛い気持ちになるのは止められない。
諦めたって思っても、目撃すると、胸が痛む。
チクチクチクチク。
針で刺してるのかな?
そんな痛み。
痛みは重なっていって、2人が楽しそうって思えば思うほど私に何重も痛みを与えてくる。
諦めたって思ったのにな。
チラッと2人を見る。
2人の楽しそうな様子が、たまらなくて、たまらなくて、席を思わず立つ。
そして、トイレに入ると同時に涙がこぼれだす。
好きな気持ちが強い分胸が痛くてねじれそうで。
だからその痛みと切なさに涙が止まらないんだ。
私の報われなかった気持ち。
ずっとずっと私の中で変わらなかった恋心。
もう諦めたと思っては、こうして復活しては私をチクチク苦しめる。
涙を止まらなくさせる。
ふと右手にこぼれた、涙を見た。
透明な、色のない透明な涙。
私の恋心は何色だったんだろうか?
濃い赤色の恋心なら、今はピンク位にあせているだろうか。
こんなに、辛いのに、いつこの気持ちはなくなってくれるんだろう。
いつ透明になるんだろう。
いつまで待てばいいのかな。
そんな事を思うと、切なくて余計に涙があふれてくる。
いつまでも終わらない出口の中にいるようで、私は毎日可能性のない毎日に色褪せるのを待つけれど⋯。
まだなんだ、全然色あせた気がしない。
その終わりは分からない。
透明な涙のついた手をハンカチで拭うと、深呼吸を2回して、私はトイレから出て手を洗うと教室へと戻ったのだった。
題あなたのもとへ
あなたのもとへいきたい。
いきたいよ。
本心はね。
実際は行けない。
そんな状況じゃない。
あなたの場所が理想だとしたら、今の場所は仮初の場所だと思う。
私の楽園があなたの側だとしたら、ここはそうじゃない。
だけど、地獄って程じゃない。
至高でないだけで、ここでも私は楽しいよ。
シアワセもあるよ。
なのにどうしてなんだろうね。
どうしても考えてしまう。
あなたのそばに行けたらいいのに。
なんであなたの傍に行けないなら出会わせたんだろう。
私があなたと出会う意味は何だったろう。
私には理解できない。行きたい気持ち、そばにいたい気持ちが凄く大きいのに、絶対に行けない葛藤。
それが私を苛むから。
無理なことは分かっているから、だから、いっそ全て切断してしまいたいのに。
それも許して貰えなくて。
私はどうしたら救われる?
永遠に行けない場所を見ていないといけないのかな?
それとも⋯全てを投げ出して行きなさいって運命に言われてるのかな。
だとしたら運命に憤りしかない。
ひどい選択をさせるんだねって。
私はまだ迷ってる。
永遠に迷っている気もする。
誰かに答えを決めて欲しい。
それでも答えが決まらないとしたら、自分で答えを出すしかないんだろう。
自分でまだまだ決められない気持ちの結末を自分で出すしかないんだろう。
題 まだ見ぬ景色
まだ見ぬ風景を見るならあなたとがいいな。
私は街デートで隣を歩く彼を見上げる。
「ん?」
って優しい瞳で私を見る彼氏にときめきながら私は口を開く。
「あのね、あなたと行きたい所があるの」
「いいよ、どこでも連れてってあげる、どこに行きたいの?」
「ずっと行きたかった所はね、カナダ。自然いーっぱいの所で一緒に、のんびりしたいなぁ。動物もいっぱいいるんだよ」
「カナダ?うーん、すぐは無理かもね、お金かかるし」
今から行くところを想像していたのか、彼氏は一瞬動きを止めると顎に手を当てて考え出した。
「すぐなんて言ってないもん。お金たまってから、いつかでいいから」
私がそう言うと、彼は微笑んで頷く。
「そういうことなら、もちろん。一緒にカナダ旅行貯金する?!」
「わー、するする、そういうとこ、大好きっ!!」
私は勢い余って、隣にいる彼に抱きついてしまう。
「ちょ、ちょっと、人前⋯」
彼氏が慌てて私を押しとどめる。
そんな所も可愛い私の恋人だ。
「じゃあさ、やったつもり貯金もしよっか?今度のディズニーデートも、映画も水族館も全部、やったつもりで貯金に回そー」
私がそう言うと、彼氏は焦った声で反論してくる。
「え?全部キャンセルするの?約束してたじゃない、楽しみにしてたのに、いいの?」
確かに、全部楽しみにしてたけど、こーいうとこから貯金して行かないとカナダに行けないもの。
私、彼とカナダに行って知らない風景やステキな自然を沢山見てみたい。
そっちの気持ちの方が強いから。
「いいよ、全部をキャンセルしても、カナダにあなたと行きたい気持ちの方が強いから」
そう断言できてしまう。
「分かった、でも、僕は楽しみにしてたからさ、せめて1つは行こうよ」
彼氏が悲しそうに言うのが可愛すぎて、私はクスッと笑いながら言う。
「もちろん、いいよ、どれ行こうか?」
そんな話をしながら、私の頭の中では彼氏と一緒にカナダの大自然の中、2人で寝転がりながら空を流れる雲をのんびりみている光景が思い浮かんでいる。
愛しい恋人と行くならどこだってもちろん楽しいけれど。
だけど、まだ見ぬ、行きたかった場所を一緒に見れたなら最高の気分だろうな。
題 あの夢のつづきを